裁判員裁判12−29
「自白調書の読み方」2011. 10. 12
                 2011年1月〜  宮道佳男
自白の矛盾は鑑定で発見せよ。 
 島田再審無罪事件 幼女強姦殺人事件
 死体の傷は、生前との古畑鑑定と自白が一致すると死刑判決、再審で死後との鑑定が出て無罪
1979年東京都中野区放火事件 一審有罪 二審無罪
 自白は、ポリタンクにかけられたポリエチレン製袋にマッチで着火、であったが、二審で燃焼実験鑑定を行い、ポリタンクに引火しないことが判明

 豊橋母子殺人事件
 公判2回目で否認に転ずる。
 被告人は通いの店員で、下宿は白黒テレビ、店のテレビはカラーテレビ、被告人は「カラーで犯行時間帯の番組を見た」と自白、しかし、この放送そのものが白黒放送であったことが判明して無罪
 リンカーンは大統領になる前、弁護士をしていた。殺人事件の目撃証人は「月明かりに照らされた被告人の顔を見た」証言、リンカーンの反対尋問は「その夜は新月で、月は出ていなかった」と暦本を証拠提出し、証人は自分が犯人であることを認めた。実は、その暦本は別の年の暦本で、リンカーンの危険な引っかけ反対尋問は偶々成功したのです。
 殺された妻の陰部に男物パンツが被せられ、B型精液が検出された。被告人はA型である。被害者の夫はB型である。本当ならば、犯人はB型血液であるから被告人を釈放すべきところ、取調官は特異な考え方をした。人間迷うときは迷えばよいのだが、思惑があると、慾のある方へ迷う。
 取調官は、何日か前の夫婦の性交のとき滞留していた夫の精液が流れ出たと考えた。素晴らしい飛躍である。
 後日、新鑑定が出た。夫は非分泌型のB型だった。非分泌型は血液以外の体液から血液型が出ない。つまり、パンツの精液は夫ではなく、犯人のものだと断定できたのです。
 被告人の自白「女性の陰部に性的好奇心があり、マッチで照らして見た」マッチ売りの少女みたいな自白が取れた。ならば、指先まで燃えた寸足らずのマッチ棒が残る筈です。しかし、死体周辺に散乱するマッチの軸は、頭部のみ燃えたもの、火薬の付いたままのもの、であり、単に捨てたか蒔き散らかしたように見えた。
 街頭にパンパンがおり、輪タクに乗る駐留米兵もいた頃、鉄橋ガード下にはマッチ売りの少女がいた。足下のマッチは根本まで燃え尽きていたのです。分からん人はお爺さんに聞きなさい。 
 被告人の自白「店に寄り、奥さんがラーメンを作ってくれたので、子供と一緒に食べた」
 子供の解剖報告「胃にラーメンなし」

 福江大火事件 最高裁判決 昭和46年4月20日 判例時報630-109
 福江市の大火、火もとと見られる倉庫の宿直員が失火を問われた事件
 自白「煙草の吸い殻を捨てた」の信用性が問われた。一審無罪 二審有罪
「各実験によると、最適の条件下においてさえ、煙草の吸い殻による、わら、こも、又はダンボールへの着火はきわめて困難であって、煙草の吸い殻を倒立させ周囲を糸くず状にしたわらくずで囲んで適当な空気を供給するとか、こも又はダンボールの合わせ目の中に吸い殻をさしこむなどの慎重な人工的、技巧的手段を講じた場合にだけわずかに着火の可能性がある。
 してみれば、被告人の自白調書の内容が仮に真実であったとしても、被告人は当夜煙草の吸い殻の火を揉み消し、又はねじ切るようにして無造作に捨てたというのであるから、そのような態様においては、吸い殻による着火の可能性は殆どなかったのではないかという疑いが濃厚であり、少なくとも、被告人の自白とおりの態様による実験を試みることなしに、原審が本件に於いて着火の蓋然性があったと即断したのは、なすべき審理をつくさず、証拠の証明力の評価を誤った違法があるものといわざるをえない」