裁判員裁判11−2 |
「名古屋地裁裁判員裁判傍聴記」2010. 12.3 2010年8月〜10月 宮道佳男 |
2、殺人未遂事件 建設飯場での作業員同士の些細な口喧嘩からの事件 前科者の老齢の被告人は殺意を認めていたが、傷害の程度からして、殺意を否認し、脅かすために庖丁を持ち出したらもみ合いとなり偶然刺さったと弁解しても通用する事件でした。被告人は殺意を認め、公判前整理手続は静かに進行していました。ところが、第一回公判9/6の前の9/3になって弁護人に「殺意はない。脅かすために庖丁を持ち出したらもみ合いの中で刺さってしまった。老齢となり就職も出来ないから刑務所に長く入りたくて殺意を認めていたのです」と告白しました。 弁護人は驚きましたが、日がないので、そのまま公判に突入し、予定通り、被害者の尋問もなく、被告人質問で始めてこの話が出ました。 検察官が朗読する自白調書は物語式でしたが、途中に一問一答式がありました。 問「出所して被害者に会ったらどうするか」 答「もう一度刺してやります。今度は確実に殺してやる」 しかし、殺意の動機にそんな激しい原因はないのです。洗い場の跡始末を巡っての単なる口喧嘩です。被告人は長期服役を希望してこんなことを話した可能性があります。 取調官が一問一答式を用いたとき、何かあるのです。取調官は驚愕したのです。その驚愕の背景に何があるのか。取調官でさえ驚いた自白の真意は何か。 求刑10年 判決8年 被告人は裁判長の制止を振り切り、何度も「控訴しません。勤めてきます」と発言していました。最後に真相を言えて胸のつかえも取れ、8年の飯の確保が出来てうれしかったのでしょう。 老後の保障を得られた被告人に祝福を 法のためには悲しみを 長期服役の希望なんてあり得ないと思う人へ 私も1978年の大晦日、片手のない失業者が服役志願で交番のガラス扉を割った事件を弁護したことがあります。被告人の希望に反するから、寛大な判決をとは言えず、然るべき判決をと弁論しました。 この裁判はこれで良かったでしょうか。 公判前整理手続を経て、裁判員の日程も決定されました。それなのに、公判直前の告白です。私なら、公判前整理手続の全部やり直しを宣言し、裁判員呼び出し状の取消と被害者証人を呼べ、目撃者と取調官を呼べとやります。 |
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