ブルドックソース対スティール6月28日東京地裁却下決定 20070702 |
6月28日東京地裁鹿小木康裁判官はスティールの新株予約権発行差し止め仮処分申請を却下した。 (却下理由) 1、買収に対する対抗手段の必要性の判断は、原則として株主総会に委ねられる。株主総会の判断が明らかに合理性を欠く場合に限って、裁判所により対抗手段の必要性が否定される。 2、スティールがグリーンメーラーとの証拠はないが、スティールが経営権取得後の経営方針や投下資本の回収方針を明らかにしないという態度を根拠に、対抗手段が必要とした株主総会の判断が明らかに合理性を欠くものとはいえない。 3、対抗手段によりスティールの持ち株が10、25%から2、82%まで低下するが、新株予約権1個に396円交付されるから、スティールに経済的不利益を与えない。 4、スティールは公開買付を7月5日までに公開買付を撤回すれば持ち株比率を維持できるというスティール側の回避方法もある。 (問題点) 1、スティールの持ち株をブルドックソースが強制買い上げ出来る、という結論が正しいか。 短評18で書いたように、民間人の権利を民間人が強制買い上げ出来る法制度はない。私有財産絶対不可侵の思想から言える。端株の買い上げとかの制度があるが、法律で規定されているからこそ根拠がある。法律の規定がないのに、株主総会の決議だけで出来るのか。 決定では、株主総会の決議があれば出来るとの論旨であり、民主主義多数決により少数者の権利を制限できるとする。 しかし、私的団体である部落で一部に対して多数決で村八分と所有地の買い上げを決議しても無効である。 東京地裁決定を読んで、株主総会決議さえあれば、買収防衛出来ると理解するのは、誤解である。 スティールの持ち株を強制買い上げすることは、スティールの株主権の行使に対する利益供与になるか否かの論点については、東京地裁は何も論究していない。民事裁判では当事者の提示しない論点について論究することはしない。しかし買い上げてやるから損はないだろうと言って買い上げれば、利益供与になるのは間違いがない。 買い占め屋、乗っ取りや屋の持ち株を買い取ってお引き取りを願うことは、株主権の行使に対する利益供与として犯罪となる。 2、スティールは決定を不満として東京高裁へ即時抗告したが、スティールは怒っているであろうか。怒った振りをしているが、内心は大喜びである。利益確定できたからである。 買い占め者は常に勝利するわけではない。買い占めがあれば、反対に空売りを仕掛けて仕手戦となる場合もある。防戦買いと仕手筋の空売りで天井まで株価がつり上がり、買い占め側が資金調達に苦しめば、暴落し、大損となることもある。買い占めはリスクの高い大ばくちなのである。 しかし、東京地裁決定では、スティールのTOB価格(スティールの買付指し値)で買い上げを認めている。スティールの言い値で売れるのである。新聞にはこれでスティールは23億円受け取り、数億円売却益を得ると報道されている。 スティールがTOBかけても誰も株を売らない。株主総会では8割を超える株主が買収防衛策に賛成しているから、8割の株を買い集めることが不可能なことが判明している。かくしてスティールのTOBは失敗となったから、スティールは、売るか、持ち続けるか、決断を迫られる。売れば、相場は暴落して大損する。持ち続けても配当以上の利益はなく、資金が寝てしまう。 株主総会で買収防衛策を特別決議3分の2で可決しなくても、株主の8割がスティールのTOB反対を意思表示した段階で、買い占め戦の勝負はついたのである。TOBの敗者の利益確定の為に会社の金を与えることはない。ブルドックソースも馬鹿なことをしたものである。 スティールは日本十数社の株式を持っているが、この方式でやれば、全部TOBの言い値で買い取らせることが出来る。スティールは、TOB戦争を何勝何敗の予定で始めているであろうが、ブルドックソースと東京地裁のお陰で、全勝確定、負け無し、利益の金額も言い値次第と喜んでいるであろう。 今は、ブルドックソースのTOB価格をもっと高く設定すればよかったと贅沢な後悔をしているであろう。 3、株主総会 市場 法律、自由貿易 地裁決定では、株主総会で買収防衛策が決定できるとしたが、株主総会というものは、現在の株主で構成される。市場は将来の株主も含めた概念である。市場を支配する原理は、株主平等の原則、株式売買の自由、言えば買い占めの自由である。売りたいから上場したのである。大口買い占めお断りの法制度はない。上場された株式は、この原則により支配される商品であり、商品に偽りがないこと、その流通が市場原理に従った法則に支配されるよう、証券取引所が監督しなければならない。 今や、ブルドックソースの株式は、株主総会による強制買い上げ条項付きの株式に変換された。これを上場された普通株式と呼んで良いのであろうか。市場への参加者は、これから、対象の会社の株式が強制買い上げ条項付きなのか、注意しなければならないこととなり、株式の流通の自由を阻害することになろう。 法律で定めなければならない事項について、株主総会で決定することを認めてしまった地裁決定は、論理的に説得力を欠く。なぜ東京地裁はこの決定をしたのか。日本の裁判所は日本の会社を救済したかった、ということになるのか。海外の論調は、日本市場の閉鎖性という論点を提起するし、スティールはこれを利用するであろう。 東京高裁の決定が待たれる。 |
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