ブルドックソース対スティール買収防衛策 20070618 |
三月決算の六月定期株主総会の招集通知書が続々と拙宅に到着しているが、この中を見ると、三分の一に買収防衛策提案、三分の一の業務適正監督提案が見られるのが、今年の特徴である。又若干の会社に株主提案が見られるのも例年にない。 今、一番問題となっているのは、会社買収防衛策である。特にブルドックソースではスティールからの公開買い付けTOBを仕掛けられ、この株主総会が山場になっている。ブルドックソースは買収防衛策を株主総会に提案し、スティールは裁判所に新株予約権発行差し止め仮処分を申請しており、裁判所の判断が注目される。特にブルドックソースの提案は他社の買収防衛策と異なっている。他社の買収防衛策についても判例の前例がなく、ましてやブルドックソースの買収防衛策についても前例など全くない。 そこで私の検討を述べる。 (通常の買収防衛策) 去年から買収防衛策として、新株予約権発行方式が提案され、この六月株主総会でも主流になっている。これを神戸製鋼を例にして説明する。 @ 株主総会の過半数の通常決議 A 15%以上の大規模買付者が登場した場合、その特定株主グループに対して、意向表明書を送付し、以下の質問を行う。 特定株主グループの概要、買付の目的、資金の裏付、 将来の経営方針、配当政策、財務計画、 買付が企業価値の向上させることになる根拠、 従業員・顧客・取引先への変更有無内容、 B 独立委員会を設置し、原則として60日間買付を凍結させて検討する。 C 以下の場合には、独立委員会が対抗処置を執る。 特定株主グループが、乗っ取り屋(グリーンメーラー)、売り逃げ屋 会社資産を売り飛ばして焦土化経営・一時的高配当を行う、売り飛ばし屋、強圧的二段階買収、企業価値の毀損 D 対抗処置は、新株予約権無償割り当て 特定株主グループ以外の株主に1株に1個の新株予約権を割り当てるが、特定株主グループには割り当てしない。 例えば、20%の特定株主グループがいれば、80%の株主に倍額無償増資(昔風の言い方)をするから、80+80+20=180特定株主グループの比率は20÷180=11%となる。特定株主グループの持ち株の株価が200億円だったら、突然110億円に下落することになる。資産価値からの株価計算だけの話 株主平等の原則があるが、特定株主グループだけに新株予約権を与えないのは、完全に差別待遇であり、持ち株評価を半減させ損失を与える訳であり、株主総会の過半数の議決と独立委員会の判定があったとしても、どうして合法化しうるのか、疑念が多い。 総会屋に対して、無償増資を与えないとか、株主総会への出席を禁止するとか、これまで聞いたこともないが、これと同じことをしようとしている。 (ブルドックソースの対抗策) @ 株主総会での定款変更の三分の二の特別決議 ブルドックソースでは、定款変更という最高の形式で買収防衛策を導入しようとしている。要件は株主の過半数出席の三分の二である。 ところで、神戸製鋼のような多数決なのか、ブルドックソースのような三分の二なのか、会社法には何ら規定がない。従って本来過半数で済む件を三分の二まで格上げしたことの法的な意味合いはない。必死の覚悟とか背水の陣の心構えを感ずるが、ハードルを上げてよかったかは別議論である。株主総会で票数が三分の二に達しなかったときの事実上のダメージは大きいであろう。 A B C は同じであるが、Dが違う。 D 対抗処置 特定株主グループ以外の株主に対して1株に3個の新株予約権を無償で割り当てる。1000株なら4000株になる。 特定株主グループに対して割り当てられる新株予約権は会社が取得し、その対価として新株予約権1個に当たり396円を交付する。この意味は、新株予約権の強制買い上げ、ブルドックソースにとっては自己株の取得、 396円×4=1584円=スティールのTOB価格 1株あたり396×3=1188円がブルドックソースからスティールへ交付される現金となる。 スティールは株数が4分の1に希釈されるが、4分の3は現金を交付される。神戸製鋼では特定株主グループは損失が発生するが、スティールは損失がないどころか、儲かることを保障される。 ブルドックソース経営陣は、神戸製鋼方式では特定株主グループに損失を与えることとなり、合法性に不安が生じるので、損失を与えなければいいだろうとこの方策を考え出したと見られる。 しかし、スティールはいくらで株を買い集めたのであろうか。平均コストが分からないが、私は六年前に700円で買っている。TOB価格が1584円であるから、平均買いコストは900円〜1100円ではないか。すると、スティールは全株売れば、1584−900=684円の儲けとなる。スティールは先週にTOB価格を1700円に値上げ発表しており、ブルドックソースがこのTOB価格に従えば、スティールの儲けはさらに拡大する。スティールのTOB価格が、買い指し値ではなく、スティールの売り指し値になってしまって、ブルドックソースは言い値で買い取らざるをえなくなっている。ブルドックソースはスティールのTOB価格を定款変更決議に書き込んだ以上、スティールの売りに買わざるをえなくなる。 ブルドックソースの買収防衛策は、特定株主グループの損失を補填するだけではなく、儲けを保障するものである。 一方が儲ければ他方は損であるのが常識である。スティールを儲けさせる現金はどこから出るのか。ブルドックソースから出るのである。特定株主から市場価格に依らず、市場を経ずに自己株式を取得することに等しい。違法である。 株主権の行使に関して利益供与することは違法である。総会屋に持ち株高値買い取りなどの利益供与をしたら商法違反で有罪になる。ブルドックソースの池田章子社長は、スティールが乗っ取り屋、売り逃げ屋、売り飛ばし屋のグリーンメーラーだと認定し、買収防衛策としての新株予約権買い取りを発動し、スティールに利益を供与しようとしている。 問題点の整理 神戸製鋼方式でもブルドックソース方式でも違法であり、後者は巧みに考えたものの、違法は更に著しい。 株主公平の原則 基本原則であり、特定株主グループとそれ以外の者との差別が歴然としている。 ブルドックソースの第七号議案には、特定株主グループの範囲として、スティールを名指ししている外に、「協調して行動する者として取締役会が認めた者」というのがある。株主総会でスティール提案に賛成した株主を含める意味に読み取れる。ならば株主総会で会社提案に反対し、スティール提案に賛成した株主は、新株予約権を与えられず、持ち株を強制的に買い上げられて株主の地位から放逐されることとなる。 株主は、株主総会議決権行使書の第七号議案賛否の欄に○×を書くには、手が震えるのである。 普通株式の違反 会社が証券市場に上場しているのは、普通株式である。種類株の優先株ではない。普通株式は同一種類でなければならない。買収防衛策の新株予約権発行ということは、普通株式の中に、特定株主グループ以外の株主が所有する新株予約権付きのものと、特定株主グループが所有する新株予約権なしのものに分類されることとなる。 東京証券取引所は、普通株式の中にかかる種別を設定することを許すのか。そもそも買収防衛策でこんなに混乱しているのに、東京証券取引所が確たる指導をしていないのがよくない。 許すとすれば、今後会社四季報の社名の横に「買収防衛策の新株予約権発行 有無あり」と記載してもらわなければならなくなる。しかし、これでは普通株式制度がなくなる。 株主権行使に対する利益供与 特定株主グループが乗っ取り屋のグリーンメーラーならば、 新株予約権を買い取ることは、利益供与となり、有罪となる。 株式自由売買の原則 公開された株式は売買が自由である。価格決定も市場原理に支配される。。 株主総会の過半数とか三分の二の民主主義でも侵せない基本原則がある。人権がそうであるが、この場合財産権である。公が民の財産を没収することは憲法29条で禁止され、公共の用途に用いるときに限り、正当な補償の元に収用が認められる。 民が民の財産を収用することは憲法からあり得ないことである。民が民の財産を強制的に買い取ることも出来ない。民間病院が敷地拡張のために隣の空き地を買い上げる制度もない。民と民の関係は契約であり、契約以外に権利の変動原因はない。 神戸製鋼方式では、特定株主グループの持ち株を希釈させるが、これは所有権の侵害である。 ブルドックソースでは、損失補償と称して強制買い上げをするので゛あるが、法律では民間の買い上げ制度はどこにもない。 株主総会決議という一見民主主義的方法で違法が治癒されると期待する向きもあるだろうが、部落民が集会を開いて、特定人の村八分とか土地の買い上げを多数で決議しても無効である。 買収防衛策はグリーンメーラーを対象としているが、本当の企業買収者はそんなものではない。新日鐵に対しては、ルクセンブルグのミタルが登場する。ブルドックソースに対しては日清食品がスティールと組んで登場したらどうなるか。ミタルや日清食品に向かってグリーンメーラーと呼んでも、無礼者と言われるだけである。ミタルは世界的製鉄会社の再編をしたい、資金は自己資金であると答えるだけである。日清食品なら、ソース焼きそば・ソース煎餅を製造したいと言われるだけである。 グリーンメーラーを主対象とする買収防衛策策定に苦労しているようであるが、本当の敵はこれではない。 私の考えは、新株予約権発行方式の買収防衛策はやめた方がよい。自由主義、資本主義、公開市場原則に従い、買収を自由にさせればよい。儲かると思ってTOBを仕掛け、買収に成功しても、その後の株価は市場原理に従い見えざる手に支配されるのである。 グリーンメーラーの関連会社に会社資産を売り飛ばそうとするのならば、代表訴訟という対抗策もある。高配当してから株を売り逃げしようとしても、株価はその前に暴落している。 |
![]() |
![]() |
![]() |