日々雑感その19  
「山忠 生前葬 7月21日キャッスルホテル」
2018年8月1日

  七月二十一日、私にとって初めての生前葬の葬儀委員長を勤めることとなった。
本人は山忠酒造の主人であり、中一からの友人である。
昭和の昔、水の江滝子なる宝塚の女優がやったのを記憶するが、それ以来かと思う。
話す価値があるか一考するが、キャッスルホテルの宴を終え、帰りに熱い夏の夕方、蝉の声を聴きながら生死の別を悟り、一筆記したるものなり。












弔    辞
山 田 明 洋 君 生 前 葬
葬儀委員長  宮  道  佳  男

 君は元来頑固な男であり ガン男であった
今より三十何年前に世にも珍しい金玉のガンを患い 金玉はタンタン狸の金玉のように膨れあがってしまった
余命三ヶ月の宣告を下されて 君は死を覚悟したが 兄上様のドクターが献身的に治療した結果 死の淵より生き返るに至った
一度生死の境を体験した者は強い
以来 君は社業に専念し 三流桶売屋の山忠を特級吟醸酒メーカーに大発展させ 今や即日完売 日本一の吟醸酒として全国に知らぬ者なしの評判を得るに至れり
しかし 今から三年前ガンが再発し発見した時は 肺脳脊髄に転移し余命三ヶ月の宣告を受けたり
二度目のガン再発 全身転移の症状は重く 君も覚悟を定め社業を息子に譲り相続対策も遺漏なく整え 死支度を用意することとした
本日の生前葬なるものは世間に流行るものではない
君の独特の死生観に由来するものなり
死んだ後 葬式をなすよりも生きている間に最後のお別れをしたいと念願することに由る
君の死生観を知る友人らが 本日 これほど多く参集するに至ったのは
君の人徳を慕うが故なり
しかし 余命三ヶ月の筈が三年生きている 不思議なことである 
オプジーボなる薬が能く効いているそうである
オプジーボなる薬は値段が高い この三年間で君に投じたる医療費は公費私費合計一億円を超へたり
借りたるものは返さねばならぬ
ならば 社業の引継と相続対策に専念するのではなく もう一度働いて
此の世に御恩返しをなすべきではないか
君は医者に騙されているのではないか 
三年前 余命三ヶ月との話を聞き 私は度々見舞に参上したが 
一年経っても 二年三年経っても生きておる
この男 死神を追い払う才能がある
死支度など止めて 実業に復帰し世の為に粉骨努力すべきではないか
木口小兵衛は死んでもラッパを放しませんでした
君の御父上は憎たらしい程 長生きをされたのではないのですか

と言うたものの この世は悲しい 万人死して亡びる運命にある
生きている限りの人生なのである
あの世があると言う人もいるが お釈迦様もキリスト様も逝って帰って
来たことはない
君の死生観はいずれ到来する運命を受容し生きている内の友情を大事にしたいことと拝察するものなり
死は万人に等しく 君のみに非ず
ならば 本日の生前葬は本日参加者全員にとっても同じ事なり
出席者全員の合同生前葬として大々的に挙行すべきではないか
君の企画により参加者全員は古い友人に会うことができた
有難いことである よって感謝する
では 唯今より
参加者全員による
合同生前葬の
幕開け
幕開け

  平成三十年七月二十一日