裁判員裁判12−102
「自白調書の読み方」2014.2.7
                 2011年1月〜  宮道佳男
 34、1審裁判官の控訴審対策の苦悩
(12-18)弁護人の悩みでも書いたが、1審裁判官にも悩みがある。控訴審で破棄されないかという悩みである。
 共犯事件の被告人Y、犯行加担を否認している。主犯Aは自白し自白調書がある。謀議目撃したという証人Bの供述調書がある。
 AとBの法廷証言がYの犯行加担否認であったとき、検察官は取調検察官を証人尋問し拷問も脅迫もなく任意に供述が得られたと証言させ、特信性ありとして検察官面前供述調書の取調請求をする。弁護人は特信性なしと主張して取調請求却下を求める。
 この時、裁判官は悩む。供述調書と法廷証言に、事実の矛盾、説明の欠落、供述の変遷、取調に誘導、利益供与などがあると、供述調書に特信性なしとして却下するが、この例は少ない。
 裁判官が却下すると、弁護人は一応喜ぶが、控訴審ではどうなるのかと悩むことは(12-18)で書いた。
 特信性なしで却下したとき、高検では大騒ぎになるようである。取調検察官の証言を否定したわけであるから、検察庁の信用問題ととらえる。地検と高検とで対策会議が開かれ、1審判決前に控訴審対策が始まる。
 控訴審が始まると、高検は特信性なしに反論を集中させ、控訴審は特信性なし判断した1審判決を破棄し、差し戻す。
 差し戻し審では、AとBの供述調書が証拠採用され全文が朗読される。こうなると、1審の審理の方向は有罪に向かう。
 だから、1審では出来るだけ特信性無しで供述調書を却下することは避け、証拠採用した上で、その信用性を批判する手法を採る。なかには、特信性なしで供述調書を却下しておきながら、更に念のためと称してその信用性に判断を進め、信用性もないと結論する判決もある。控訴審で批判されるのを先取りしておくのである。特信性で勝負を付けたのならば、信用性の判断に入る必要はないのに、そうするのは控訴審対策である。殺した百足が蘇生しないように足で踏みつぶすようである。
弁護人が主張する特信性信用性なしの論点に対して1審判決は判断を漏らすことはあるが、検察官の主張する論点には全部答えて、検察官の控訴趣意で判断遺脱と言われないように心掛けている。