裁判員裁判12−109
「自白調書の読み方」2014.4.17
                 2011年1月〜  宮道佳男
5、アナザーストーリー、積極主張の必要性
 午前8時公然と人の出入りの多い駐輪場で、被告人が一物を露出し「やらせよ」と叫んで抱きかかり、直ぐに通行人に制止された2010年の名古屋地裁強姦致傷裁判員裁判、被告人は「酩酊して記憶がない」と主張した。弁護人は「被告人の言う通り」と答え、強姦致傷を否定したが、アナザーストーリーを主張しなかった。
 被害者証人は検察官の尋問に答えて「一物は半立ちでした」と証言したが、弁護人はこれに対して反対尋問しなかった。   
 求刑6年、判決は5年であった。判決文は短い。「弁護人は現場の公然性から強姦はあり得ないと主張するが、被告人がやらせよと言ったから、被告人が強姦以外の意図を有していた可能性は見いだせない。弁護人が指摘する通り、被告人が胸部に触れようとも衣服を脱がそうともしていない。確かに、これらの行為があれば、強姦の意図がより明確に認められようが、しかし、これらの行為がなかったとしても、姦淫行為が未遂である本件に於いては、上記の推認を妨げるものではない」
 五指の例えがある。
 親指は20代、人差し指は30代、中指は40代、一物の勃起度であります。
「中立ち」との被害者証言があった。その勃起度を確かめ、被害者の性体験を問い、没入可能の可否を問うべきであったのです。拳銃強盗の兇器は何か。拳銃です。強姦の兇器は何か。一物です。貴方の被告人は性犯罪を問われているのです。 上品ぶっては弁護人は勤まりません。下品な尋問をしなければなりません。勃起、フニャフニャ、没入、性体験、エログロ三流週刊誌並です。
「もっとお上品に尋問しなさい」と私に注意した裁判長が昔いましたが「事実は下品にして尋問が下品にわたるは避け難し」と答えました。
 兇器無き犯罪は犯罪ではない。兇器がなければ、役に立たなければ、強姦は成立しない。インポ男は強姦の犯人には成り得ない。成り得るのは、公然猥褻と強制猥褻だけです。若いときは強姦できたのに、老化すれば、公然猥褻、強制猥褻しか出来ないのです。
「やらせよ」これは日常用語です。即、強姦の意思表示とは言えません。足を踏まれて「この野郎、殺すぞ」を口癖にする人がいます。殺意の意思表示なのでしょうか。被告人はキャバレーの従業員でした。店では、毎夜「やらせよ」「高いわよ」と嬌声が飛び交っているのです。聞き慣れた台詞なのです。「やらせよ」は何ですか。没入させてくれなのか、触らせてくれなのか、嘗めてくれなのか、握ってくれなのでしょうか。罪刑法定主義の被告人有利の最低解釈原則によれば、これは「Hなことやらせよ」の意味です。 
 何故、公然猥褻、強制猥褻の主張をしないのか。しないから判決で「被告人が強姦以外の意図を有していた可能性は見いだせない」と一蹴されてしまったのです。
 裁判員にこれら主張をぶつけていれば、裁判員は新たなことを発想したでしょう。裁判官3人とも最高の紳士、とても、性犯罪にも嬌声飛び交うキャバレーにも縁がない。生涯、女に向かってやらせよと言うこともない。しかし裁判員には縁もあって、口癖の人もいた筈です。  
 女子校の門前、コートを着た裸男がコートを開け「やらせよ」と叫んで女子高生に抱きつき取り押さえられた事件、縁のある裁判員は「たんなる馬鹿で強姦も出来ん情けない奴だ。懲役5年は酷い」と言うでしょう。昔、司法修習生でこれに似たことをやったが、首で済んだ者がいました。
 大衆の参加する裁判員裁判として、最初の相応しい世俗的裁判と思っていましたが、残念な結果でした。