裁判員裁判12−11
「自白調書の読み方」2011. 3. 29
                 2011年1月〜  宮道佳男

2、第2段階 被告人と取調官の相互作業としての自白


A警察の、冤罪でっち上げ、はない。警察もそんなに閑ではない。

 よく、警察が冤罪をでっち上げるという人がいますが、小説の世界です。
 しかし、ないことではない。
 樫田忠美検事著 検事物語
 大正の始め、千葉で夫婦殺し、息子が自白し、担当の樫田検事は宿へ帰った。すると捜査主任がやって来て「この事件が覆されることのないように、解剖の時の血液を息子の着衣に塗りつけておいた」と忠義立てをした。検事は驚いて戒告し、血は主任が実験のためにつけたものとの書類を作成しておいたが、鑑定はなされなかったので、その書類は使われずに終わった。
 戦後でもあった。侵入窃盗事件、検事が取調していると、被害品の紙幣が足らない。刑事を呼び、聞くと、刑事は「紙幣は有った方が良いのでしょうか」と問う。検事は、これはまずい、どこからか調達してくる積もりだなと危ぶみ、早々に退散させた。
 でっち上げはもうないと信じたい。
 しかし、捜査官がその事件と公的私的に密接化してしまい、抜き足ならない状態になったとき、でっち上げが始まると危惧する。
 捜査本部の会議で、あいつが犯人だ、職を賭けると宣言したとき、彼はこの事件から、もう自由ではあり得ない。

 ハイから始まった、取調で、取調官は有罪の見込みから確信を抱いていきます。易者でもないのに易者を務めるのです。
 取調官の確信が、アリバイなどの決定的証拠の登場により崩壊したとき、取調官は確信を放棄しますが、それまでは、有罪推定の原則で断乎追求します。
 取調官は疑うのが商売です。疑いを捨てることは商売を辞めることです。
 疑いから確信にまで発達した取調官は、不退転の決意を持って取調するのです。特に、一度ハイを聞いた取調官は信じ込んでいるのです。
 
 では、冤罪事件の場合、どのように、自白調書が出来あがっていくのでしょうか。現場に行ったこともない容疑者がどうして現場と犯行を語れるのでしょうか。
 現場と犯行態様を知っているのは、現場検証している取調官です。取調官が容疑者に教えるのです。警察学校の教本では、「容疑者に語らせよ、教えるな」と教えています。しかし、取調官はいつも教えてしまうのです。