裁判員裁判12−12
「自白調書の読み方」2011. 4. 6
                 2011年1月〜  宮道佳男

1948年幸浦事件 一家4人強盗殺人事件
 被告人の自白により松林から死体を発見したという、秘密の暴露があり、自白調書の信用性ありとして、1審2審で死刑判決、最高裁差し戻し
 取調官は被告人に死体を何処に捨てたかと厳しく追求し、既にハイと言ってしまった被告人は、困り果て、松林のある地点に埋めたと自白、警察は発掘するも、出てこない。そこはそもそも松の根が密集している所で掘ることが出来ない場所でした。
 警察は松林内の別の地点に被害者の衣類が落ちていたことを突き止め、その付近を大捜索していた。柔らかい砂地だったので、棒を差し込み探索していた。やがて、被告人の指示する地点から死体が発見されたという話になったが、そもそも警察は大捜索で当たりを付けていた疑惑が出てきた。
 しかも、被告人が書いたという死体を埋めた場所の図面を捜査中に紛失したという。これでは、被告人が指示した地点が本当に死体発掘地点と一致するのか疑わしくなってきた。最高裁は、秘密の暴露に当たらないとして、自白調書の信用性を否定して無罪とした。
 何故、被告人は知りもしない松林に死体を埋めたと自白し、図面まで書いたのか。取調官が教えたからです。取調官は大捜索で松林に死体が埋められたと当たりをつけている。だから、どっちへ行った、西か東かと問う。被告人が反対のことを言うと、しかめっ面をする。既にハイと言って、観念している被告人は、ならばこっちかと次の返答をする。当たると、取調官は喜ぶ。要領が分かってきた被告人は取調官の誘導指示するまま、行路を指し示す。それでも、現場を知らない被告人は図面化できる程精密な知識はないから、図面は乱雑にならざるを得ない。乱雑な図面を裁判官に見せることは出来ない。だから、死体発見と同時に取調官は図面を破棄して、被告人の指示した地点から死体が発見できたとの捜査報告書だけでことを誤魔化そうとした。最高裁はここを見破ったのです。
 自白調書は全文取調官の字です。信用できません。
 しかし、被告人の書いた図面は被告人の字です。自白調書より信用できます。これを破棄したということは、取調官さえこの図面を信用できなかった、それくらいいい加減な図面だったということなのです。
 ハイの後の、詳細かつ具体的な自白調書は、被告人と取調官の共同作文、教師は取調官なのです。拷問をして、倒れた被告人の横で、取調官が勝手に作文するのではないのです。取調官は被告人の口から期待している言葉が出るのを待ち、出てくるのが遅ければ誘導するのです。ですから、自白調書は、取調官と被告人の相互作用による共同作文です。
 あっちか、こっちか、西か東か、右手か左手か、順手か逆手か、正答率50%の択一質問をして、取調官の期待に反する回答のときは、不満そうに再質問する。これを繰り返して被告人を教育すれば、取調官の望む自白調書が出来上がっていくのです。

 2009年弥富父親強盗殺人事件では、帰宅途中の経路図と立ち寄った公園の図面を被告人に書かせたが、取調官は捨ててしまった。帰宅の途中に、ある公園で座り込み、強盗殺人計画を練り直した、という警察ストーリーで、その公園への経路図と、トイレと屋根付きベンチとテーブルのある公園の配置図を書かせた。ところが、被告人に道案内させて現場引当に行っても、そんな公園はなかったのです。結局、取調官は自白の信用性をむしろ害する証拠と判断し、ポイと捨ててしまったのです。取調官による証拠の廃棄は、取調メモの廃棄と同じく、重大事件です。