裁判員裁判12−16
「自白調書の読み方」2011. 5. 25
                 2011年1月〜  宮道佳男

 3、第3段階 自白の総仕上げの、あがりの自白調書

 罪体についての取調が終わり、勾留期限が迫ってくると、最後の自白調書を取ります。テーマは、反省の意思、態度、贖罪感情です。
 たいていは、「とんでもない事件を起こして反省しています。被害者の方には何と申し訳して良いか分かりません。終生ご冥福を祈ります。取調の最初に否認してお手間を取らせました。今後は真面目に働いて更生しますので寛大な処分を宜しくお願い申し上げます。」
 否認と自白強要の時は、恐ろしい顔つきをしていた取調官もこの日は教誨師のような顔をしています。被告人がぐずぐずして、反省の言葉が出てこないとき、取調官は「じゃ、罪が軽くなるように書いてやる」と被告人が言ってもいない言葉を書き始めます。第2段階では、被告人と取調官との相互作業で、取調官は被告人に教えた言葉を一旦被告人の口から語らせる作業をしますが、第3段階では、取調官は面倒くさくなり、早く帰りたいので、勝手に作文を始めます。
 ですから、あがりの自白調書には、被告人が口にしたことのない、難しい用語が出てきます。
 贖罪、更生、真人間、被告人が使ったことのない丁寧用語、敬語、取調官の使う方言・言い回し方
 あがりの自白調書を良く読みなさい。取調官の文才が分かります。
 被告人は既に観念して自白していますので、どんなあがりの自白調書でも署名します。
 この、あがりの自白調書さえ取っておけば、もう大丈夫、公判で否認に転じられても、「反省すると言ったじゃないの。否認してお手間を取らせました、と言ったじゃないの」で対応できるのです。
 このお終いの自白調書は、取調官にとって、一丁あがりの自白調書なのです。どんな事件でも、最後の締めはこれです。

4、その後、
 自白調書を取られた容疑者は絶望します。そして、自己嫌悪に陥ります。立ち上がれる人もいますが、そのまま、忘れたいと不幸な境遇を受容します。
 1986年122人選挙供応無罪事件
 供応の略式罰金命令を受けた、146人の内、正式裁判請求したのは135人、11人は請求せず罰金を納付しました。11人は法廷で「候補者が来ていなかった」と証言しましたが、正式裁判申立もせず再審請求もしていません。
 富山強姦冤罪事件
 被告人は争わず服役し、その後真犯人が登場しました。権力への恐怖感を生涯抱き続け、諦めの人生を送る積もりだったのです。