裁判員裁判12−2
「自白調書の読み方」2011. 1.25
                 2011年1月〜  宮道佳男
ウソの自白など、簡単に生まれます。
認めれば死刑になる事件で、あえてウソ自白をする筈がない、との考えは間違いなのです。殺害していなければ、被告人は殺人という事実の現実感がない。だから、死刑にも現実感を抱かないのです。実感なきウソ自白が生まれるのです。

3、15分で自白した例
 1949年イギリスのエバンス事件 妻と娘が殺され、警察に呼ばれた夫は15分で自白した。法廷で否認に転じ、隣人が真犯人と指名したが、通らず、死刑執行された後、隣人の家から女性死体5人が発見され、隣人が猟奇的連続殺人事件の真犯人と分かった。
 
 1984年横浜、難病で長患いしていた妻が病死、検屍医が窒息死と誤診、警察は夫に「お前が犯人でなければ息子が犯人となるから、息子を逮捕する」と言うと、その日の内に自白、法廷で誤診が明らかとなり、無罪判決
 夫「私か息子かという二者択一を迫られ自白した。動機なんかないから、動機の質問をされて、今度は、犯人は息子ではなく私だと、刑事を信用させなければならないと、空想しながら、動機を語ったのです」
 家族を助ける為に、ウソの自白をし、更に、看病疲れでいない方が良いと思って両手で首を絞めたとウソの動機と手口を自ら考え出して自白したのです。
 単に自白しただけではない。動機や手口までスラスラと自白しているから、信用できると言う説がありますが、大間違いです。
 人はかくも簡単にウソ自白をするのです。

 1961年名張毒葡萄酒事件 婦人会で女性5人毒殺 1審無罪、2審3審死刑
 取調官から「お前が否認し続けていると、家族が村八分になる。土下座して謝れと迫害されている」と言われて、自白、自白後、取調官に両脇を固められて、記者会見テレビ放映
「ちょっとした気持ちからこんな大きな事件に・・・、亡くなられた方になんとお詫び申し上げて良いのか分かりません」
 当時中学生の私はこのテレビ放映を見て、有罪を信じました。被告人が法廷で否認に転じたとき、嘘だと思った。日本中、有罪と信じてしまった。
覚悟の自殺があるように、家族を助けるための覚悟の自白があります。
 2005年名古屋高裁は再審開始決定、2006年名古屋高裁の異議審は再審取消決定し、「自ら極刑になることが予想される重大事件で、あえて嘘の自白をするとは考えられない」と述べた。
 この高裁裁判官はあのテレビ放映を記憶していたに違いない。
 最高裁で破棄差し戻し、現在名古屋高裁で異議審中
 私の統計調査 名古屋高裁の裁判官3人無罪、3人有罪、だから、ウソ自白はあり得ないと信じている裁判官の存在確率50%
 弁護人は法廷で、3人の裁判官の内、1.5人が、そう信じていると予想して、弁護をかからなければならない。裁判員裁判ならば、6人の裁判員の内、4人に理解して貰わない限り、被告人を助け出すことが出来ないのです。
 憲法第38条3項を知っている筈の裁判官でさえ、50%が信じている、この恐ろしい思想、法に素人の裁判員も信じていることを当然予想し、何度も何度もこの思想の誤りを強調しない限り、被告人は助からない。

 弁護人がついていても、公判を通じて一貫自白 富山強姦事件 
 無実なのに、追求されると、認めてしまい、犯行の手口まで取調官に教えられるまま、語った。服役出所後、真犯人が登場、再審無罪
 弁護人が付いていたが、被告人は弁護人にさえ真相を語らず、弁護人も有罪と思い込んでいた。この世の不条理に抵抗せず、運命と諦めてしまう性格の人、ハイと言えばいいと諦観している。日本人なら、10人に一人はいるような気がする。外国人にこのタイプは少ない。エバンズは例外です。

 戦前、帝人贈収賄事件 戦前最大の疑獄事件 全員自白全員無罪 
 大蔵省銀行局長が収賄で逮捕され、翌日自白
 友人の東大教授穂積重遠弁護人の弁論
「監獄の第一夜を、いびき、雷の如く熟睡する度胸のなかったことを惜しみます。しかし、それは惜しむのであり、咎める訳には参りません。それは非凡の大人物か、稀代の大悪党でなくしては出来ないことであります。被告人の如く、平凡なる善人の企て及ぼざるところなり」
 東大卒の銀行局長という、最高の紳士、エリートでも、即座にウソ自白するのです。  

 1986年大阪地裁選挙買収供応事件
 122人の被告人が選挙で金銭飲み食いの供応を受けたという事件、122人が揃って「市会議員の後援会総会へ行き、参議院候補者の選挙で頼むの演説を聞いて飲み食いした」との自白をしていた。しかし、裁判で、候補者は来ていない、と認定され、全員無罪
 一つの事件で、122人の被告人の自白調書570通、関連する証人の供述調書多数が否定された空前絶後の例 ヤメ検が弁護人となり、警察と検察の自白強要を暴いて、天を仰いだ。