裁判員裁判12−21
「自白調書の読み方」2011. 8. 2
                 2011年1月〜  宮道佳男
3、適正手続き違反の違法収集証拠排除・証拠能力無し
 
@任意同行の違法性
 1979年9/30秋田市常習累犯窃盗事件 飲食店のレジの金が15000円足らないことから、勤務始めたばかりの刑務所返りの被告人が疑われた。
 10/1被告人は自転車窃盗を疑われ、根拠もないのに、パトカーに乗せられ任意同行と称して連行された。
 控訴審無罪判決
「警察官が、被告人を逮捕しうる実質的要件がないにもかかわらず、被告人を無理にパトカーに乗せた行為は、任意同行の限度を逸脱する違法な任意同行であり、実質的逮捕行為に当たり、その後自白を得るまでの間も違法な身柄拘束が続けられていた。違法な任意同行に引き続く取調により得られた被告人の自白の証拠能力はもとより、その後の緊急逮捕及び勾留中になされた被告人の一切の自白の証拠能力も否定すべきである」

A別件逮捕勾留の違法性
 1975年四日市市青果商殺人事件 一審無罪確定
 別件詐欺容疑で6/11逮捕、6/14から殺人容疑で取調、6/21殺人で逮捕
「厳格な司法抑制を要求する令状主義の建前や、右抑制を徹底するために、勾留の及ぶ範囲をその基礎となった被疑事実を基準に画そうとする事件単位の原則の見地から、慎重に判断すべきであり、許容限度を超えた取調がなされた場合、詐欺容疑で逮捕勾留されたときの自白調書も殺人容疑で逮捕勾留されたときの自白調書も、実質的には前後の身柄拘束を一個と見ることができ、証拠能力は否定される」
 同旨 1969年鹿児島夫婦殺人事件 一審二審有罪 最高裁差し戻し
 高裁判決昭和61年4月28日無罪判決
「別件逮捕勾留中に作成された自白調書は、任意捜査の限度を超えて違法であるのみならず、憲法及び刑事訴訟法の保障する令状主義を実質的に潜脱するものであり、捜査官が職務に精励したことを認めるのにやぶさかではないが、自白調書は司法の廉潔性の保持及び将来に於ける違法な取調の抑制という見地から違法収集証拠としてその証拠能力は否定されるべきである」
4/12別件逮捕 以後任意取調 7/25起訴 事件単位の原則、勾留20日間の期間制限を遙かに逸脱しているのです。

B現行犯逮捕の違法性
 1981年のぞき住居侵入事件
 風呂場をのぞかれて110番した通報者から、犯人の風体を聞いた警察官が250m離れた地点にいた被告人を現行犯逮捕
 控訴審判決 無罪
 通報者は、追呼しておらず、250mも離れた以上、犯行現場と被告人との連続性に欠け、現行犯逮捕の要件 に欠け、令状のない違法逮捕というほかない。違法に逮捕勾留中の自白調書の証拠能力は否定される。
  
C弁護人選任権の侵害
 1965年六甲山保母殺人事件 一審無罪 二審差し戻し 一審有罪 二審無罪
 9/29別件詐欺逮捕 11/7被告人が佐々木哲蔵弁護人を呼べと要求、警察無視  11/10殺人を自白 11/11詐欺で起訴 11/15殺人容疑で逮捕 12/6殺人で起訴
 1/27国選弁護人の選任

 一審 別件逮捕違法、弁護人選任権侵害の違法ありにより、自白調書は違法収集証拠であるから証拠能力無し 無罪
二審と差し戻し後の一審は、別件逮捕の違法性を否定し、佐々木哲蔵を呼べは弁護人選任の申し出とまでは言えないとし、自白調書の信用性を認め、有罪判決
 差し戻し後の二審は、別件逮捕の違法性を触れず、弁護人選任権に対しては前審通りの判断、犯行後に被害者を目撃したという証言を排斥できないとして、無罪判決
 一審判決では、佐々木哲蔵を呼べとの被告人の要求を無視したことを弁護人選任権の侵害とし、任意性には触れずに、自白調書を違法収集証拠により証拠能力無しと判示するものであり、その後の二審が否定しているが、画期的です。

D尿検査手続きの違法 この判例は山ほど有る。
 知人宅での覚醒剤嫌疑の捜索中、たまたま訪れた被告人は捜査員に出くわし、逃亡しようとし、捜査員に連行され、所持品から覚醒剤、任意提出の尿から覚醒剤が検出された。
 千葉地裁 1992年12月14日決定
 連行は、逮捕に等しく、違法、所持品検査も違法、令状主義からして、尿検査結果は証拠排除