裁判員裁判12−31
「自白調書の読み方」2011. 11. 8
                 2011年1月〜  宮道佳男
3、説明の欠落・無知の暴露
 
犯人であれば、当然知っており、語れるはずのことを語っていないとき、自白は嘘と見なされる。
 取って付けたような自白、見当違いの説明、上滑り又は掘り下げの浅い自白がそうです。

@ 松川事件 列車転覆事件
 被告人の不良仲間が「事件前に被告人から列車転覆を予告する話を聞いた」と供述し、大量逮捕の糸口となった。不良仲間は法廷で「聞いた時刻と事件の前後ははっきりしない」と証言したが、1審2審は供述調書を採用し、死刑判決を下した。その供述調書は、予告を聞いたとだけ書かれており、何をたわけたことを言っているのかとの感想、事件が勃発したときの驚愕がないのです。
 文芸評論家広津和郎の批判
「それは今夜雨が降るとか月が出るとか言ったのではない。列車が転覆すると言ったのである。それを聞いた瞬間、その耳に聞いた時の何倍かの強さをもってその予言は再現される。それはハッキリ記憶に刻みつけられる。その刻みつけられ方は決して曖昧なものではない。20日後の取調でこの話が事件の前か後かであったか、分からなくなるという、そんな曖昧なものではあり得ない。はっきり予言だとして記憶に刻み込まれるものである。これが人間の心理現象である」

A 冨士高校放火事件
 生徒が放火したと自白したが、自白調書には、放火後校内に鳴り響いた非常サイレンの音について書かれていない。聞いておれば、けたたましく鳴り響いた音響についてハッキリとした記憶が植え付けられているはずである。説明の欠落を理由に自白調書を信用できないと判決。

B 豊橋母子殺人事件
 判決「被告人となった通いの店員の自白には、食器洗いの中に被告人の靴下があったこと、被害者妻のベットの中に男物パンツがあったことの説明がない。真犯人ならば語りうることを語れないのは無実の証拠である」
 通いの店員であるから、店に靴下があってもおかしくはない。しかし、勝手場の食器洗い桶の中にあるとは奇妙である。犯人ならば覚えている筈である。
 自白調書では「靴下はソファに置いてきたか、どっかに置き忘れてきたのか、よく思い出せません。僕が無意識のうちに移動させたかも知れません」
 完全な説明の欠落です。
 被告人も分からない。取調官も分からない。だから、取調官は自分の想像を被告人に誘導することも出来ない。
 取調官は分からないと、しようがない。それでも被告人との結びつきを強調する為に「無意識」と言う言葉を用いる癖がある。「説明できないけれど、無意識」便利で重宝な言葉です。無意識の言葉は被告人の口から出ていません。取調官が教えて自白調書に書き込んだのです。
 殺された妻の内股に手提金庫があり、中には燃やされた書類があり、かつ小銭が残されていた、という奇妙なことがあった。取調官は何度も被告人に聞いたが、動機についてウソを語り得た被告人もこの説明は出来ない。取調官も想像を巡らしても知恵は出ない。結局、自白調書にはこの点を書けないままに終わってしまった。取調官が見おとした説明の欠落ではない。取調官は説明したくても出来なかったのです。