裁判員裁判12−39
「自白調書の読み方」2012.3.9
                 2011年1月〜  宮道佳男
1970年豊橋母子殺人事件
 当初の自白  電気コードをグルグル巻きにして絞めた
 その後の自白 コードを押しつけた。死体の鑑定と合わせるように変遷
盗品の捨て場所
  便所から埋立地へ変遷

盗品自体を変更
 盗品に指輪があがっていた。被告人は「事件後キャンプの下見に行ったとき、 豊川に捨てた」と自白、川浚いするが出ない。
そもそも、キャンプの下見に行くとき、被告人には尾行が付けられており、尾行役の婦人警官は「不審挙動無し」と報告書を書いていた。最後の最後まで、指輪が捜査のネックになり、ついには盗品リストから外してしまった。
取調官は迷うと、最後は都合の良い解釈をします。嫌疑そのものが幻とは疑わず、縮小認定で対応します。
 取調官が犯罪事実の縮小認定したとき、その理由を探るべきです。期待している証拠が出ない、取調官の構想が破綻しかけているのです。

 9/3被告人の自白「店に寄り、コタツの上の柿の種というアラレを食べた」
 9/13被告人の自白「この前の取調のとき、コタツの上の柿の種を食べたようにお話ししましたが、本当のことを申しますと、コタツの上は綺麗に片づいていました」
 何故、自白が変遷したのか。被告人の口から「柿の種」の言葉が出て、取調官は、ドスンと来る説得力のある、体験した者でなければ語れない、具体的供述を得たので喜んだ。
 捜査員が周辺捜査を報告してきた。被告人の弟や友人の話によると、確かに柿の種はあったが、店のコタツの上ではなく、下宿のコタツの上だったのです。被告人が好きで買い、下宿で食べていたのです。被告人は柿の種を食べたという記憶を話したことは正確であったが、場所が違う。取調官が「柿の種」を言い張ると、無罪に向かっていってしまう。だから、自白を変遷させたのです。
「思い出しました」式の自白調書の変遷は、その訳を疑うべし。
「柿の種」に「無意識的転移」が起こったのです。ある状況での目撃を別の状況での目撃と見誤る、混同することです。
 「パトリック・ウオール 刑事事件における目撃者の犯人識別」駅員は強盗にピストルを突きつけられた。駅員は犯人面通しで水兵を指さししたが、アリバイがあった。駅員は、見覚えのある者は誰か、という観点から眺め、客として何度か切符を買っていた水兵を指さししたのです。これは無意識的転移の古典的例です。
 本を読んでいると、海岸の写真が出てきた。断崖絶壁、白い灯台、打ち寄せる荒波、ああ、行ったことのある風景だと思う。更に読んでいくと、貴方が行ったこともないデンマークの海岸であった。
 自白の変遷の中でも、被告人の意図的或いは無意識の、無罪方向への変遷がある。これを見逃すな。
 豊橋母子殺人事件 
 奥さんに作ってもらったラーメンの丼を洗い桶に漬けた件の取調のとき、被告人は「ちよっと、お尋ねしたいことがありますが、水に漬けると指紋は消えるものですか、残るものですか」
 取調官「それを聞いてどうする」
 被告人「もし残るものとすれば、僕がラーメンを食べたんじゃないことを証明できるんじゃないかと思って」
 取調官「お前が拭って消したかも知れん」と、ただ一蹴した。
 取調官は、被告人が無罪方向を語り出したことを無視し、拒絶したのです。