裁判員裁判12−40
「自白調書の読み方」2012.3.28
                 2011年1月〜  宮道佳男

徳島ラジオ商事件再審開始決定 昭和55年12月13日
 参考人として取調をうけていた段階では、否認し、その後検察官にだけ2回自白し、又否認に戻った。「かように自白が検察官の提出した事実を承認するだけであって、その時点では本人だけしか知らないような事実が述べられず、しかも2.3日後に取り消しされているような場合には、元々、自白としての証拠価値を容易には承認すべきではない概括的自白であって、任意性信用性を認めるのは危険である」

 仁保事件 差し戻し控訴審昭和47年12月14日
「犯行の前後の情況事実、すなわち、被告人が犯行前大阪から犯罪地の仁保村付近に帰った日時、犯行までの徘徊経路、寝食した場所に関する供述が、第5回警察官調書を境として一変し、さらに右調書以後においても、右徘徊中の出会いと窃盗の相談、その実行、犯行前生家に立ち寄った日時、その際身を潜めていた場所、母との対面の会話、食事の内容、父親や実子の動静、侵入の決意の時期、さらには犯行後の逃走経路、その途中出会った人物、血に汚れた着衣を処分し、身辺の整理をした場所、方法、大阪行きの汽車に乗車した状況、車中での状況などに関する供述は、4カ月余に及ぶ捜査の末期までしばししば変転動揺し、いかも互いに矛盾し両立し得ない変転前の供述部分も変転後の供述部分も真の体験者でなければ語り得ないような真実性や真実らしさを備えていて、2.3の例外を除いては、いずれが真実でいずれが虚偽なのか容易に判別し得ない。
 そうすると、 極刑にも値するような重大犯行の核心を自白し、供述調書上や手記、短歌などに悔悟の情さえ示しているようにみえる被告人が、その犯行前後の情況事実については、何が故に変転動揺し虚実不明確な供述をするのか、はなはだ不可解で理解に苦しむところである。すなわち、被告人が真犯人であって、客観的証拠の揃っている犯行自体についてはやむを得ないと観念して自白したものの、犯行前後の情況事実については、捜査官において確実な証拠を握っていないことを見抜き、ことさら真実を隠蔽し、虚偽の事実を事実らしく粉飾脚色して当面を糊塗し、捜査によってその裏付けのないことを指摘される都度これを変更するに至ったもので、それは捜査を攪乱して確証の発覚することを防ぎ将来犯行否認の際の伏線とすることを意図したのではないかとの疑いも濃厚であるが、他面供述の変転動揺部分は、捜査官において裏付け資料も予備知識も有しないために、具体的な誘導、暗示も行われず、また被告人にも犯行並びに犯行前後の体験がないが故に、捜査官の追求に窮し、過去の知識や別の機会の経験に基づき、その場限りの虚言を真実らしく粉飾して供述し、当面を糊塗しようとした結果ではないかとの疑も払拭し難い」

 東十条郵便局強盗殺人事件 東京地裁昭和42年4月12日 判例時報486-8
 2/24自白調書「声を出されそうに思われたので左手で女の口を塞ぎ、右手でいきなり首を絞めました」
 3/10自白調書「立ったまま二度目のキスをかわすと女はかなり大きい声でキャーと叫んだので、咄嗟に左手で口を塞ぎ右手で首を絞めた」
 3/12自白調書「女を脅かして金を取ろうという考えを起こしたほかに、半分はからかってやろうという気持ちもありました。大きい声でも立てられたら逃げる心算でありましたが、案外そんなこともなかった」
 判決「被害者から大声をあげられたか否かについて供述が変転している。咄嗟に殺害行為に出たとされている本件では、殺害行為に至った発端は極めて重要な点であるのに、この前後の供述には余りにも著しい差があって、犯行の細部については記憶違いも十分ありうることであるにしても、かような点に思い違いがあったとは到底考えられない」
 自白の変遷と説明の欠落の2論点を判断しています。