裁判員裁判12−47
「自白調書の読み方」2012.7.4
                 2011年1月〜  宮道佳男

仁保事件 最高裁昭和45年7月31日 判例時報598-37
「被告人の供述調書を見ると、詳細であり、かつ迫真力を有する部分もあり、また犯人でなければ知り得ないと思われる事実についての供述を含み、さらに客観的事実に符合する点もなしとしないのであるが、他面、供述内容が、取調の進行に連れてしばしば変転を重ね、強盗殺人という重大な犯行を自供したのちであるにもかかわらず犯人ならば間違えるはずがないと思われる事実について、いくたびか取消や訂正があり、また一方、現実性に乏しい箇所や、不自然なまでに詳細にす ぎる部分もあるなど、その真実性を疑わしめる点も少なくない。供述中に終始不動の部分もあるが、それは主として捜査官に於いて本件発生当時から知っていたと思われる事実についてのものであり、はたして、被告人のまぎれもない体験であるが故に動揺を見せなかったものであるのか、捜査官の意識的無意識的の誘導、暗示によるものか、他の証拠と比較して、軽々に断じがたい」

鹿児島夫婦殺人事件 最高裁昭和57年1月28日 判例時報1029-27
「被告人の自白が、本件犯行及びその前後の状況を一応詳細かつ具体的に述べるものであり、犯行現場の状況等客観的事実と符合する部分も少なくないが、その中には、秘密の暴露に相当するものが見あたらない。自白が真実であれば、当然その裏付けが得られて然るべきであると思われる事項に関し、客観的証拠による裏付けを欠けている。自白からは、本件犯行の真犯人であれば容易に説明することができ、また、言及するのが当然と思われるような、証拠上明白な事実についての説明が欠落していること、自白の内容に不自然・不合理で常識上にわかに首肯しがたい点が数多く認められる。自白が長期取調により得られていること、以上により、信用性を否定した」

 具体的かつ迫真性ではなく、秘密の暴露 客観的証拠 説明が欠落ないこと
の三要件なのです。

 松川事件、有罪の1審2審は、赤間自白を具体的詳細臨場感ありと信用しましたが、差し戻し2審は「赤間自白の中心点の一つである釘犬抜き取りの自白中、真に犯人であれば、経験則上思い違いや錯覚の起こり得る筈のない事実につき、転覆謝礼金の場合と同様に『真にそのことを経験した者でなければ述べられないような情景を活写した如き供述』をしながら、実はそれが虚偽架空の自白であったことが動かぬ証拠によって確証されたのである。赤間自白の不信用性はここに極まっている」
 大森勧銀事件 
 有罪1審判決「犯行の動機、犯行状況等の自白内容の合理性、秘密の暴露の存在、客観的証拠との符合性、目撃証言の情況証拠の信用性を肯定し、犯行状況に関する自白について、実際に現場において体験した者でなければ述べることのできない事項が少なくない」
無罪2審判決「体験供述は、真犯人でなくても自由に想像を交えて架空の供述をすることも不可能ではない、取調官の誘導暗示の働く余地があり、真に迫った供述をすることも可能」
 松山事件
 有罪2審判決「自白中、被害者宅へ行く途中で休憩した状況、被害者方内部の様子、被害者の就寝状況、放火材料の杉葉に触れた様子等の供述部分につき、経験者でなければよく述べ得ないもので、思いつきや創作で述べたとは認められない」
 再審無罪判決「自白は、捜査官の追求、誘導により創作や思いつきで述べることもあり得ること、経験者でなければ述べ得ない供述とはいえない」