裁判員裁判12−58
「自白調書の読み方」2013.2.21
                 2011年1月〜  宮道佳男
取調メモ
 最高検の平成20年7月9日の高検地検次席検事宛の「取調べメモの保管について(通知)」では
「取調べにおける被疑者等の言動を記載したいわゆる取調メモに関し、近時の裁判実務においては、捜査機関の保管しているものについて、証拠開示の対象となり得る場合があるものとされており、関係者のプライバシー、名誉等の保護等の観点からも、これを適正に管理することが求められています。
 そこで、検察官又は検察事務官の作成する取調メモ(専ら自己が使用するために作成されたもので、他に見せたり提出することを全く想定していない、いわゆる個人的メモをのぞく)の保管に当たっては、その適正を図るため、本年7月22日から、当面、下記の取扱によることとしてください。
                             記
1、主任検察官は、捜査過程で取調メモが作成されている場合には、「当該被疑者等の供述調書や関係する捜査報告書には具体的に記載されておらず、その記載内容から直ちには推認できない被疑者等の言動が記載され、取調状況についての判断をする上で必要と認められるもの」につき、公訴を提起する際、公判引継ぎ用取調メモであることを明示し、事件ごとに事件記録とは別に綴りを作成した上、当該公判を担当する主任検察官に引き継ぐものとする。引継ぎを受けた当該主任検察官は、当該取調メモの引継ぎについて上司の確認を得た上で、具体的に必要と認める間、同取調メモを適正に保管するものとする。
2、捜査を担当する主任検察官が引き続き公判遂行を担当する場合にも、上記1の例に従い、当該取調メモを適正に保管するものとする」

 と書かれています。良く読むと「保管すべきと判断したものを保管する」と読めますが、弁護人はこの最高検通知は有効利用し、取調メモの開示を請求すべきです。2010年10月の新聞報道によると、最高検通知の後、取り調べメモを廃棄せよとの闇通知が発せられたとのことです。
 2010年9月名古屋地裁裁判員裁判で、この最高検通知があったからでしょう。面白いやり取りがなされました。この項の詳細は(11)へ
 弁護人が自白調書の任意性を争い、取調検察官の証人尋問となりました。弁護人は「取調メモをどこへやった。開示請求に対する回答では、そもそも取調メモは存在しない。存在しない理由は釈明の必要はない、と回答してきたが、何故だ」と追求したところ、検察官は「私は取調メモを取りません。全部記憶でやります」と証言しました。
 被告人は立ち上がり「取調室、私の目の前で検察官はメモを書いていた」と追及 検察官は、事件系図のメモを書いていただけで取調メモを書いていたのではないと証言しました。被告人対検察官の対決尋問なのです。
 私は、聖徳太子様でもないのに、何時間もの取調に一切メモを取らず、いきなり検察事務官相手に口述して自白調書を完成させることはあり得ない、最高検通知がもたらした現場の混乱があり、この検察官なりの苦肉の策と思いました。裁判官から一切このことで質問がなかったので、どのように判断したか、疑問ですが、裁判官は証言を丹念にメモしており、自分の実務感覚と異なる証言に驚いたか、呆れたか、されたことでしょう。