裁判員裁判12−59
「自白調書の読み方」2013.3.1
                 2011年1月〜  宮道佳男
1970年豊橋母子殺人事件
 警察は逮捕時の自白調書を紛失した、と法廷で言いだしました。
 何故、紛失したのか。大苦労の末に、逮捕状を取り、殺人の自白をさせた記念碑的自白調書なのであり、紛失するはずはありません。
 では、何が書かれていたのか。
 犯行時刻に被告人が店にいたと自白され、次いで犯行も認めさせた。この自白調書に何が書かれていたか。
 犯行時刻に放映されていたテレビ番組は11PMであり、被告人が供述する番組内容は、警察がテレビ局から取り寄せた番組台本と一致し、被告人が11PMを見ていたことは間違いがありません。
 被告人の下宿のテレビは白黒、店のテレビはカラー。
 これが決め手であることは、取調官に分かっていたから、勝負を賭けた。
 テレビ画面の色、海の色、ピラニアの色まで被告人に語らせたのです。カラーを語らせることにより、被告人が下宿ではなく、店にいたことを語らせたのです。見た色のことばかり書かれた自白調書があるのです。
 後日、捜査本部に驚愕する報告が届きました。テレビ局から、豊橋地方での11PMは元々白黒放送であったと。
 取調官は全員頭を抱え込んだでしょう。逮捕当日、カラーと自白していたのが、全部ウソ、とても裁判所へ提出できません。そこでポイ捨てしたのです。もうここで無罪を確信した捜査員もいたでしょう。しかし、戦艦大和は転針できなかったのです。
 紛失した自白調書、その日付の直後の自白調書、もう、テレビ局からの報告が届いた後の取調の、裁判所へ提出された自白調書では「よく覚えてませんが、カラー放送だったような気がします。或いは、白黒だったかも知れません」とトーンダウンしています。
 見た11PMのカラーを明瞭に述べた自白調書とこの自白調書とを併せて裁判所へ提出する訳にはいかないから、ポイ捨てしたのです。