裁判員裁判12−60
「自白調書の読み方」2013.3.7
                 2011年1月〜  宮道佳男
1965年六甲山保母殺人事件 無罪→差し戻し→無期懲役→無罪
 被告人の自白により死体が発見されたとされているが、被告人が書いたという死体を捨てた場所の図面が紛失した。死体の存在を知っていた警察官があたかも図面により死体を発見したと偽装したのではないかと疑われた。死体発見の前に、被害者のバックが死体遺棄現場から10mの地点で拾得発見されたことを警察は把握していた。警察官は「現場へ行った際、その図面はもみくちゃになったそうです」と証言したが、怪しいことです。
 被告人の最初の自白調書に添付された図面は、最初の図面ではなく、その後に書かせた図面であり、最初の図面の紛失は担当検察官さえ知らないまま起訴されている。
 判決「警察官が重要物証である図面を紛失したということ自体、まことに不思議であるとして、自白の信用性を否定した。図面をなくすようでは、秘密の暴露を立証する資格がない」

 犯罪捜査規範 
 第109条
 1、所有者、所持者または保管者の任意提出に係わる物を領置するに当たっては、なるべく提出者から任意提出書を提出させた上、領置調書を作成しなければならない。この場合に於いて、刑訴法第120条の規定による押収品目録交付書を交付するものとする。
 2、任意の提出に係わる物を領置した場合に於いて、その所有者がその物の所有権を放棄する旨の意思を表示したときは、任意提出書にその旨を記載させ、または所有権放棄書の提出を求めなければならない。
第112条
 1、領置物について廃棄、換価、還付又は仮還付の処分をするときは、警察本部長又は警察署長の指揮を受けて行わなければならない
第113条
領置物について廃棄又は換価処分を行うに当たっては、次に掲げる事項に注意しなければならない。
  1、処分に先立ち、その物の状況を、写真、見取り図、模写図又は記録等の方法により明らかにすること。

 容疑者に図面を書かせるとき、警察官が公用紙を出し、容疑者がこれに書き込む。警察官としては、紙の所有権は警察にあるから、領置手続きは不要と言いたい。しかし、容疑者が家族に手紙を書きたいと言ったときと同じく、警察官が容疑者に紙を渡した瞬間、紙の所有権は容疑者に贈与されると見るべきです。容疑者がその紙に死体の隠し場所などを書いて図面を作成したとき、その図面の所有権は容疑者にあります。ですから、警察官は領置手続きを取らなければいけません。
 警察官が容疑者に図面を書かせて、その図面が犯罪証明のために有利であれば保存し、不利であれば、廃棄するということは許されません。犯罪捜査規範第177条は「取調を行ったとき、供述調書を取らなければならない」と規定しており、認めていても、否認していても等しく供述調書作成義務を科しています。
 警察官が容疑者から図面の提出を受けたとき、領置手続きを取らないのは、第109・112・113条の面倒な手続きを回避する為です。