裁判員裁判12−63
「自白調書の読み方」2013.3.28
                 2011年1月〜  宮道佳男
13、詫び状を書かせる。独白を記録する。

松川事件第二次最高裁判決
 赤間被告人が一審現場検証で相被告人本田に「俺たちが休んだのはもう少し向こうの方だったなあ」と話しかけたのを聞いたという警察官の証言について
「しかし、かりに赤間が真犯人であったとしても、自白から否認に転じ、公判開始以来終始無実を訴えて続けてきた赤間被告人が検挙以来否認している本田に向かって、この重要な検証の行われている際に、戒護巡査はもちろん裁判官や検察官が直ぐかたわらにいるところで、自分たちが犯人たることを 告白するような不用意な発言をするものであろうか。赤間が若年であるとか、口が軽いとか、あるいはまた拘禁中の被告人の外出による解放感とかいうことで説明がつくものとは思われない」

仁保事件 6人強盗殺人事件
 被告人が、手紙・手記に告白文・和歌「過ぎし日のおも影六つ胸に秘め生きるこの身の苦しき思いは」を書いていたことを、原判決は「当時の被告人の真情を吐露したものと認めるのほかなし」
 最高裁判決「原判決のごとく一義的に解釈することに問題有り」
 

大森勧銀事件
 被告人は犯行翌日に友人や実母・兄弟に「大森の銀行の事件を知っているか。あれはおれがやった。五人くらいでやったが、自分は直接殺していない。本件に関わり合って警察に追われているので借金の返済は待って貰いたい」と話したり、遺族への謝罪の手紙を書いている。
 検察官の上告趣意書「被告人は遺族に謝罪の手紙を書いており、被告人が真犯人でない限りかかる言動に出ることはあり得ないことであり、このことは被告人の自白が任意になされた真実の自白であることを証明する」
 最高裁決定「肉親や友人らに対する言動は、その後の公訴事実にそう自白とも重要な点で相違しているのであって、その証拠価値には自ずから限界があり、所論のいうほど決定的なものとすることはできない。のみならず、右言動も所詮は被告人自身の自己に不利益な供述であって、客観的証拠の裏付けがあってはじめて高い信用性を有するに至るものにすぎない。被告人の言動は、当時同人らの注意を引く必要があったことや、同人らと被告人との間柄、被告人の性格などからみて、安易軽率になされたものとみる余地もないではなく、肉親に対する言動も、実母らに問われるままに、疲労困憊し精神的に混乱した状態で、・・深い思慮もなく答えたものとみることができないわけではない。そして更に、勾留質問で公訴事実を認めたことや謝罪の手紙も、既に捜査官に対し全面的に自白した後のものであり、後に検討する自白と同一線上のものとみることも可能である。・・多義的解釈を容れる余地がある」

1965年六甲山保母殺人事件
 被告人に遺族への詫び状を書かせたうえ、取調官への感謝状まで書かせている。
「最愛の娘さんを死に至らしめご両親をはじめご兄弟の方々を悲しみの底深く沈めました極悪にして非道なる者に申します。今更如何様につくろった詫言を並べましたところで心底からのお憎しみが眼底にうつりお許しが得られようなどとは毛頭考えていません。この冷酷無比なる私をお攻めくださいませ。今更何一つ弁解の余地すら残されず、前非に対する悔悟と絶望に対する虚無が交錯して書き綴るこの文も遅々として進まず瞑目と合掌の連続です」

梅田事件 被告人が家族に宛てた手紙を、警察官は投函せずに届け、その場で任意提出を受けて領置している。これは証拠を作り出した感じがあると判決が指摘している。