裁判員裁判12−75
「自白調書の読み方」2013.6.18
                 2011年1月〜  宮道佳男
任意性を否定した例
 浦和地裁平成3年3月25日判決 覚醒剤取締法違反 判例タイムズ760-261
 この件で否認しても、前の尿で出ているから起訴する、否認したら重くなる。母親が認めろと言っている、母親が警察から刑務所へ行かせてくれ、被告人がいなくても一家団欒していると言っている、とウソをついた。任意性否定の根拠とされた。
 浦和地裁 平成3年5月9日証拠取調請求却下決定 判例タイムズ764-271
 町長に対する贈賄者の取調で、妻が町長に面談したことをとらえて「女房を使って鳩まで飛ばして、女房を逮捕する、弁護人の証拠隠滅だから資格剥奪。お前が認めれば女房も弁護人も助けてやる」と脅かした。

 よく似た例として、おびき尋問、カマ掛け尋問がある。
(自白 真実への尋問テクニック 1990年 Fインボー・Jリード・Jバックリーぎょうせい) によると、
被疑者に「被害者宅の隣人が、当夜君の車が被害者宅前に駐まっているのを見た」と尋問する。無実の被疑者ならば、駐車自体を否認する。しかし「ちょっと駐めただけでそのまま帰りました」と弁解したら、取調官は被疑者の顔色を読んで合点がゆくと、嫌疑の確信を強める。被疑者が最初犯行を否認していたとき、「被害者宅に立ち寄ったこと自体を否認していたのに、何故だ」と追求します。
「金庫から君の指紋が出たんだよ。以前にうっかり金庫に手を付いたことはなかったかね」
 取調官は被疑者が日記を書く癖があるのか、知らないのに「君の日記は何処にあるのか」と尋問する。もしも「君は日記を書くのか」と尋問すると、被疑者は否定するかも知れない。取調官が既に日記のことを知っているのかと被疑者に思い込ませるのです。
「君はAを知っているか」と尋問するより「君はいつからAを知っているのか」と尋問した方が効果的とされる。
 その時、取調官は書類を見ながら尋問する方が、被疑者の不安感を掻き立てるから良いとされる。
「犯行時間帯に何処にいたか」との質問、被疑者は「高速道路をドライブ中」と答えた。取調官「その時間には交通事故があり、大渋滞だったが、どうしたね」と質問する。被疑者は何と答えるか。「渋滞なんか知らない」と答えるか。高速道路での渋滞は日常茶飯事だから、犯行の日の渋滞のことは思い出さない。取調官の尋問に合わせるために「大分遅延しました」と答えるかも知れない。実際には渋滞はなく、取調官のカマ掛け尋問だとすると、取調官は、カマに掛かった被疑者を冷笑し、有罪を確信する。
 被疑者はカマを掛けられて落とし穴に落ちる。取調官はカマを掛けたつもりで、自分の掘った落とし穴に落ちるのです。「渋滞なんか発生していないのに、していたと答えたお前は嘘つきだ」と責めるのです。
 このように、アメリカでは合法とされているカマ掛け尋問は、真実発見のために、被疑者の為にも取調官の為にも、とても危険なもので、禁止されなければなりません。官は嘘を言うべからず。
 弁護士は、カマ掛け尋問が為されたと、取調官の証人喚問を請求するでしょう。
 ただ、有能な取調官は、カマ掛け尋問を絶対に自白調書の中に残さない。
 取調官が被疑者に嘘を付く機会を与えることは合法です。取調官が分かっていることを分かっていないように装い、何気なく質問する。事件日が雨だと分かっていても、「天候はどうだったね」と質問して、回答を確かめる。嘘を付く機会を与える余裕と技術。晴れだと教えてはいけません。帰宅時間が23時と分かっていても「帰宅時間は何時」と質問する。
インボー=リード小中信幸訳尋問の技術と自白

 洗脳 記憶の混乱を利用した催眠術的詐術
 富士高校放火事件 「人間は酒を飲むと、やったことを全部忘れてしまうから、お前も自分では放火など絶対にしていないと言っているが、無意識のうちにフラフラ起き出して知らないうちに放火して家に帰って寝てしまった」と繰り返し繰り返し洗脳していると、被疑者もその気になってしまった。
「お前は記憶がないと言うが、放火したかしないかはどちらでもいいから、もしお前が冨士高へ行って放火するなら、どうするか、考えてみよ」
 その気にさせられた被疑者は自分が犯人との仮定の上に立って想定を話すと、取調官はそれを自白調書に取った。自白調書には「仮定のうえ」は書かれず、被疑者がやったというふうに書かれてしまった。被疑者は取調官の詐術に気が付かない。
 取調官のこのやり方は結構多い。豊橋母子殺人事件、半田風天会事件