裁判員裁判12−76
「自白調書の読み方」2013.6.27
                 2011年1月〜  宮道佳男
21、検察官の遮断 
 浦和地裁平成3年3月25日 覚醒剤取締法違反 判例タイムズ760
 検察官が警察官の取調の影響を遮断する為の特別の処置を講ずるべきであり、遮断されたと認められない限り、警察での自白調書に任意性が認められないと、検察官での自白調書にも任意性は認められない。
 東京高裁昭和58年6月22日 判例時報1085-30
 警察で自白した翌日、検察官の取調を受けた被告人が「昨日の自白はウソです。警察官から拷問を受けた」と訴えたところ、検察官は何も聴いてくれず機嫌を悪くして「まだ時間もあるから良く考えて警察官に事実を申し述べよ」といって、取調警察官を同席させたまま取調を続けたため、被告人は警察通りに認めてしまったという。検察官としてなすべきことは取調警察官の立会を排し、検察事務官の立会を求め、被告人に対して拷問の有無を聞き出し、自白が真意に出たものか確かめることであろう。検察官がしたことは、警察の拷問を遮断することではなく、むしろそれによって得られた自白を確保することであったといっても過言ではない。検察官自白調書に任意性が認められないことは明らかである。
 袴田事件 一審判決は、逮捕8/18から9/5否認し、その間の調書無し、9/6から10/13までの28通の警察官自白調書は任意性に欠けるとして証拠から排除し、16通の検察官自白調書は起訴後の取調だからと適正手続きに欠けるとして証拠排除したが、9/9の1通の検察官自白調書だけは証拠採用した。採用した理由を、あの左陪席熊本典道裁判官は書いている「検察官取調に警察官を立ち会わせず、警察と検察庁は違うのだから警察の調べに対して述べたことにこだわらなくてもいい
と言い、警察官自白調書を机の上に置いていなかった」教科書通りの書き方であり、迫力に欠ける。これ以上書けなかったのであろう。
 28通の警察官自白調書に囲まれた1通の検察官自白調書だけが任意性信用性があるとは、非常識であります。これだけ検察官が警察官の任意性なき取調を遮断し得たることなどあり得ません。
 無罪統計を読みましたが、検察官段階で自白を撤回したという事例が見つからないのです。殆どが公判段階で撤回しています。検察官はよく「取調で警察と検察庁は別だから自由に話すよう説示している。取調に警察官を立ち会わせない」と言いますが、被疑者にしてみれば、警察も検察庁も同じ所と思えます。勾留裁判官さえ同類と見えるのです。検察庁での取調が終わったら帰るところは警察署の留置場です。迎える警察取調官は「おい検事様に何を話してきた」と問いかけます。「違うことを話さなかったよな」と念押しします。検察官の遮断などあり得ません。検察官が抱いている幻想です。特に検察官が警察署の取調室で取調することがあります。検察官と警察官、んといの一字違いに過ぎません。被疑者は違いが理解できません。検察官は胸に「検察官検事〇〇警察の違法目付」とぶら下げると宜しい。
 検察官の前で、被疑者が自白を否認したとき、検察官は警察取調官を呼び「こちらの被疑者様が否認したいと言っているんだよ」と言います。警察取調官は「心得ました」と言って、警察柔道場へ連れ帰り「真人間になると誓ったじゃないか。性根を鍛え直してやる」と言います。
無罪統計 1981年日弁連人権擁護大会報告書     
件数 自白あるもの 自白撤回のもの 撤回の時期
警察 検察
誤起訴事件 143 90 70
逆転無罪事件 110 68 52 5

 殆ど、公判段階での自白の撤回なのです。警察と検察庁とは一体です。取調期間中、弁護人の面会時間は制限され、弁護人は自己紹介くらいで面会を終え、本論に入ることさえ出来ません。被疑者は起訴されて拘置所へ移管され、警察取調官も検察官も来なくなり、弁護人との面会時間に制限がなくなったとき、ようやく自己紹介が終わった弁護人と本音の話に入ることができます。第一回公判で、被告人が否認したとき、検察官は仰天します。弁護人が唆したと思い込みます。証拠隠滅か偽証教唆で捕まえれんかとも思います。しかし警察取調官は長い時間被告人と付き合ってきましたから「やっぱりね。でも起訴は検事様がお決めになったことだから」と仰天しません。
 私の戦後事件調査で、検察庁で検察官の遮断があり自白から否認に転じて良い方向へ向かった例を知りません。もしかすると賢明なる検察官のご判断で不起訴になった例があるかと思いますが、統計や報告に出てこないのです。私の37年間の起訴前弁護でも見たことがありません。弁護士仲間の打ち明け話でも聞きません。