裁判員裁判12−80
「自白調書の読み方」2013.7.23
                 2011年1月〜  宮道佳男
 松川事件第一次最高裁多数意見
「太田自白が信用できない理由としては、同自白が変転を重ねていることのほかに、同自白中に、虚偽架空の転覆謝礼金の授受のことが、実に根強く繰り返されている」
 同自白では「国鉄被告人から東芝被告人に転覆謝礼金が支払われた」とあり、同被告人の自白を切っ掛けとして、被告人全体に同じ自白が取られた。しかも、その金額が巨大なものとなっていき、資金の出所がおよそあり得ないこと、金の使い道を調べても出てこないことから、検察官も最終的には、転覆謝礼金構図を放棄するに至っています。
 この判決は、根幹・大筋部分の嘘だから、信用できないとの、枝葉or根幹・大筋説に乗っているようにも読めます。しかし、これは、動機部分ですから、本来、枝葉に分類していいのです。構成要件である、列車転覆共謀と実行部分を根幹・大筋とすべきです。多くの判決を読んでいますと、構成要件事実だけを根幹・大筋とせず、犯行の端緒とか動機とか事後の行動まで根幹・大筋ととらえて、根幹・大筋部分=自白の重要部分に虚偽があるから、信用性がないと結論しています。枝葉or根幹・大筋説を取るとき、このことに注意すべきです。構成要件事実だけが、根幹・大筋ではないのです。

松川事件第二次最高裁多数意見
「たしかに、赤間の自白調書を一読すれば、その自白は具体的かつ写実的であり、たとい取調官の暗示や誘導に基づくものがあったとしても、実際には犯行に関係のない者が果たしてこのような自白をなしうるものであろうかとの感を抱かせるものがある。とくに赤間が当時いかに若年で思慮分別が足りなかったにしろ、本件の如き死刑または無期懲役の刑罰の予想される重大な犯罪について、自分だけではなく、他の7、8名をも共犯者に巻き込むような嘘を、逮捕後旬日を出でずしてするというようなことがありえようかとの感は、赤間自白に対して誰しもが一応は抱くところであろう。しかし、この直感にたより過ぎることは極めて危険であって、赤間自白以外に、赤間らと本件犯行を結びつける確証があるかどうかを、なお慎重に検討する必要がある」
 枝葉or根幹・大筋説でも、客観的確証を要求しているのです。