裁判員裁判12−81
「自白調書の読み方」2013.8.1
                 2011年1月〜  宮道佳男
岩国殺人幇助事件 最高裁昭和60年12月19日 判例時報1194-138
 これは、被告人が暴力団の舎弟と共謀して、対立暴力団の組長を射殺したと起訴された事件ですが、原判決は、舎弟の自白調書の中の、@被告人から殺人を指示され拳銃を交付された、A被告人とともにキャバレーの下見をした、B被告人の誘いにより一緒に組事務所を下見した、の部分は、合理的な疑いを挟む余地があるとしながら、その余の部分、すなわち、被告人と電話で襲撃の際レンタカーを使用すると相談した部分、レンタカー代として5万円貰った部分は、十分措真信しうるとして、殺人幇助の限度で有罪としました。
 最高裁判決「舎弟の自白調書の内容は、被告人が殺害を指示して拳銃を交付し、その犯行を容易ならしめるため、一緒に犯行現場を下見し、一方、舎弟は自己に犯行を指示した被告人に対し、レンタカーを用いる積もりである旨その計画を明かして、自己の決意が固いことを報告し、被告人は舎弟の求めに応じてレンタカーの借賃を交付するという経緯を辿っているのであり、全体として殺害指示に始まる一連の相関連する一個の事態の推移に関するものである。従って、舎弟の自白調書のうち、被告人から殺害を指示されたという、被告人と殺害を結びつける部分の信用性に合理的な疑いがあるというのであれば、特段の事情がない限り、これと密接に関連する爾余の供述の信用性にも重大な疑惑の生ずることは明らかである」
 原審は、自白のいくつかを分類し、信用できない部分があるが、信用できる部分もあり、信用できる部分を集めると有罪と結論していますが、最高裁はこの論理過程を厳しく批判しています。虚実混ぜての嘘は全体の嘘なのです。