裁判員裁判12−85
「自白調書の読み方」2013.10. 4
                 2011年1月〜  宮道佳男
23、身替自首での完璧なるウソ自白を見破る
 高松地裁平成5年10月4日判決 傷害致死 判例タイムズ853-280
 組長が内妻を折檻して死なせた事件、配下組員が身替自首し、完璧な自白調書が出来ている。第2回公判で、否認を転じて身替わりと訴えた。
 自白調書は、勿論、身替自首であるから、完璧である。組長宅の内部にも通じており、事件の経過を組長から聞いているから、矛盾もない。
 無罪判決の手法は、動機論から始まった。被告人に動機がないのです。次に死体の損傷と自白との矛盾を責めました。組長から事件の経過を聞かされていたが、やはり実体験者ではない。自白の細かな矛盾を見おとさなかった。被告人の自白では説明できない損傷を発見したのです。
 公判で否認に転じた理由として、この事件は組組織の抗争ではなく、組長個人の問題であり、組員の自分が身替わりを勤める理由がないし、出所しても組長の女を殺したという評価しか得られないと気付いた、被告人の母親が被害者への弁償金として500万円の負担を求められた、ことを被告人が上げているが、この説明は自然で合理的である。
 ウソ自白の冤罪事件としての、究極の身替自首、これを見破れるようになったら、裁判官は優等合格となります。
 判事諸君、目の前の交通事故裁判、本当に被告人が運転者であったか、傍聴席の兄貴が真犯人か、疑いなさい。事故の経過を始めから尋問しなさい。ハンドルを持っていなかった者はおかしな供述を始めます。見おとすべからず。昔の予審判事とは時代が違いますから、やらないでしょう。
 しかし、後日、犯人隠避事件が来たら、貴官の恥です。
 話は変わりますが、1978年いわき市で2500円の強盗の被害者主婦が警察に届けに行ったら、狂言の嫌疑を受け、軽犯罪法違反の虚偽申告罪の自白調書を取られ、科料3000円になったことがあります。翌年真犯人が登場しました。
 もう、凄腕の取調官は自由自在なのです。神谷警部補の言った「殺人でも3日で自白させてやる」なのです。