裁判員裁判12−87
「自白調書の読み方」2013.10.18
                 2011年1月〜  宮道佳男
25、被告人が偽装自白をしたとの決めつけ
 2010年再審無罪となった強盗殺人の布川事件 被告人二人は無期懲役となり仮釈放後再審請求
 有罪とした最高裁判決
「一般に、捜査官が被害金額を確定し得ない案件に於いては、被疑者が故意に金額等についての供述を変転させ、後にいたって犯行を否認する足かがりにするという場合等、いろいろな事情が考え得る。被告人は、奪取金額等について供述するところに、食い違いを残しておけば、裁判で争うと通用すると考えたからである、とか、6万円盗んだと金額を多く述べて嘘を言ったのは、自分だけ奪った金額が少ないと信用されないと考えたからである、などと供述するのであるが、これによれば、被告人供述の変転は、右の一般例の故意による供述の変転の場合に当たると推認しうる」
 被疑者が将来の裁判戦術のために、取調室で、故意に嘘を付く、例えば3万円取ったのにわざと6万円取ったと言う、一般例、即ち、常識がある、というのです。
 取調室での圧倒的な力関係の格差の中で、被疑者が戦術を考案できることはあり得ません。 
 最高裁が、これが一般例として存在しうると公言したことは、怖ろしいことです。
 被告人は盗んでいませんから、金額を言えません。想像して6万円と言ってみる。後で取調官が、違うといって、何故違う金額を言ったのか、捜査を混乱させるためか、裁判戦術かと追求して、その供述調書を取るのです。
 取調官は被疑者が犯人ではないかと疑い、取調して厳しく追及しようとします。被疑者が否認すると、嘘つきとか真人間になれとか、試し尋問をして被疑者の様子を見ます。被疑者が脂汗を流せば、自分の読みが当たっていると思い込みます。そして、厳しい取調に耐えかねた被疑者が、盗んだことにしておきゃ良いじゃないか、と答えると、取調官は遂に落としたと確信します。
 取調官は、そんな言い方じゃいかん、ちゃんと盗んだと言えと畳み込みます。
 被疑者は、言葉弱く、じゃ、盗みました、と言う。被疑者は絶望しているか、ふて腐れているか、なのであるが、取調官はそこには関心がない。落とした勝利感に満足しています。
 次に、取調官は、いくら盗んだ、と聞きます。
 被疑者は盗んでいないから、金額を答えられない。しかし、一旦盗んだと言った手前、何か金額を言わなければならない。試しに6万円と言ってみる。
 取調官が被害金額は3万円と見当を付けていたとき、6万円の返事に落胆するが、盗んだという自白が嘘とは思わず、6万円という自白が嘘だと思い込む。
 なにしろ、取調官は落とした勝利者なのです。
 取調官から、3万円だろと言い出すことは取調規則で禁止されていますから、3万円と教えることは出来ない。しかし、そんなに多くはないとか6万円以下を示唆し、それで何に使ったかとかに話題を転じます。(取調規則に反して3万円と教えてしまう気の短い取調官もいます)
 被疑者は盗んでいないから、何に使ったかに答えられません。しかし、その当時の金の使い先を質問されれば、答えることが出来ます。飲み屋でいくらとか質問回答をしている内に、3万円に近い使い道を並べることとなります。
 取調官は、君のいつもの金の使い方だと3万円位だね、と誘導します。
 そこで、被疑者に盗んだ金額は約3万円と言わせます。
 被疑者 3万円 そんなとこですかね、
 被疑者の有罪と勝利を確信した取調官は最後の詰めに入ります。
 取調官 最初6万円と言ったのは何故か、捜査を混乱させる為か、裁判戦術か
 後でひっくり返そうと考えたのか
 予期せぬ質問に被疑者は驚きます。しかし、6万円が3万円に変わったことは事実、変わった理由を言わなければならなくなりますが、無実の被疑者には言える筈がない。
 取調官は、盗んだ金は3万円と分かっているのに、6万円と言ったのは、お前が太い神経を持っているからだ、本官を愚弄したなと、罵倒します。
 この結果、自白調書では「盗んだ金は3万円ですが、最初6万円と言いましたのは、わざといい加減なことを言っておけば、後でひっくり返せれると思ったからです。お手間を取らせて申し訳ありません」と書かれることになり、被疑者は絶望しながら署名します。
 弁護人は、真実の被害金額が1万円或いは10万円ではないかと考えるべきです。もしもそうだとしたら、自白調書の任意性と信用性を争う手がかりとなります。

 これは、最低の露骨な被疑者悪人説です。最高裁がこの説を一般例として公言した罪は深い。次の通り、下級審に悪影響を与えています。