裁判員裁判12−99
「自白調書の読み方」2014.1.17
                 2011年1月〜  宮道佳男
 八海事件では、偽証罪で4人が有罪となっている。犯行前の謀議に参加したと新証言をした樋口豊もそうである。彼は一審で謀議など聞いていないと証言したが、偽証罪逮捕起訴の後、「謀議に参加して自分も荷担する約束をしたが、父親の法事のために参加できなかった」と新証言をした。しかも、公判が進むに従って、謀議参加回数が増えていくのである。三度目の控訴審はこれを採用したが、最後の最高裁は「吉岡が一貫して樋口謀議参加を否定しているのに信用できない」とした。
 二度目の控訴審無罪判決「樋口豊、山崎博、木下六子、上田節夫、岩井武雄は当審で突然従前の供述を変更し被告人らに不利益な供述をなすに至り、張正夫、小野敏、金玉弦、鶴崎章は新たに被告人らに不利益な証言をなすに至ったのであるが、・・・本件の差し戻し後、捜査官の執拗な取調を受けたものと推認することができる。そして捜査官が同一人に対し日時を異にして度重なる取調をなす場合に於いては、供述者が従来秘匿していた真実を告白することがある反面、執拗な取調に屈服して真実を枉げて迎合的な供述をなす危惧がないとは言えない。又張正夫、小野敏、金玉弦、鶴崎章は、本件が差し戻しされた後、即ち事件発生後満七年を経過した頃はじめて本件について検察官の取調を受け、その後当公廷で証言するに至ったものであって、人間の記憶力の限界等の観点からして、これら証言についても慎重な考察を加えなければならない。・・・樋口豊は、正木弁護人の出版記念会で被告人の冤罪を訴える話をしながら、偽証罪で逮捕起訴されるや、被告人らの不利益な供述をするに至り、公判で弁護人に対し、殊更敵意を持ったような「覚えぬ」という証言を繰り返すのである。樋口豊は偽証容疑で起訴されるに至った以降のことは、検察官にその弱点を握られており、いわば検察官の手中にある証人と言えないこともないのであって、その新証言はあらゆる角度から十分な検討を加えたうえその真否を判定せねばならぬ」
 18年間地元はこの裁判を巡って大騒ぎし、有罪派と無罪派に別れて争っていた。無罪派の人がある理由で有罪派に鞍替えすることもありうる。無罪派であるが故に検察官から偽証罪で逮捕されれば、これを避けがたい天命のように信じ込み、お上への抵抗は無意味と自らを納得させ、被告人らに、お前達のことはお前達で始末付けよ、俺に迷惑を及ぼすな、と敵意を抱いて、有罪証言をすることもあり得た。
 最後の最高裁は「木下の境遇を見よ」と言った。
 拷問、強要、脅迫の最高形態としての、偽証罪逮捕は胄山事件でもあった。
 弁護人は公判中での偽証罪逮捕が公正な裁判を侵害するものと激しく非難したが、3度目の控訴審は「検察官が偽証の嫌疑を発見したら起訴するのは当たり前」と擁護した。しかし、公判中に証言の訂正を求めるために、偽証罪の腰縄を着けることがどんなに偽証を誘うことになるのか、検察官は考えていない。
 二俣事件では、内部告発をした山崎兵八巡査が偽証罪で逮捕され、精神異常と鑑定を付けて起訴猶予にされている。
 三鷹事件でも、検察官申請証人が検察官の意に反する証言をしたところ、証言直後に証人控え室で逮捕されている。