会社法平成18年度改正について 
第1 商法改正と会社法の成立
1 改正の経緯
2006年5月、会社法という新しい法律が施行されました。会社法の施行前も株式会社等について定めた商法第2編は通称「会社法」と呼ばれていましたが、会社法という名前の法律ではありませんでした。この商法第二編(旧会社法)は、明治32年に制定された後、時代の変化に会わせて改正が重ねられてきましたが、条文は片仮名文語体のままで、大変読みにくいものになっていました。加えて、商法の改正と平行して、監査の強化を目的とした「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法)や中小会社向けの会社について規定する「有限会社法」が制定され、商法第二編と並んで、会社のあり方を規定する重要な法律となっていました。
そこで、これら商法第二編、商法特例法、有限会社法をまとめて条文を整理するとともに、内容的にも現代のニーズにあったものに改正し、条文自体も現代語に改めることにしました。
そうして成立したのが今回の会社法です。
2 具体的な改正の内容
今回の改正で大きな変化といえるのは、まず、有限会社が廃止され、今後は有限会社を設立することができなくなったことがあげられます。その代わり、株式会社を設立するに際して、今までの有限会社とほぼ同様の制度をもった株式会社が設立できるようになるなど、株式会社の機関について、多様な設計が可能になりました。なお、会社法の施行以前から存在している有限会社がどうなってしまうのかについては、後に述べたいと思います。
会社法には、株式会社のみならず、持分会社として、合名会社、合資会社、合同会社の三種類が定められています。このうち、合名会社と合資会社は改正前の商法第二編にも規定されており、若干の改正が加えられたものの、大きな変更はありません。これに対して、合同会社は、会社法によって制定された新しい会社の形態です。
3 会社法とはなにか
会社というのは設立したら終わりというものではなく、例えば、製品を作って販売する等の事業活動を行います。しかし、会社法は、そのような個々の事業活動について定めた法律ではありません。個々の事業活動については、民法やその他の法律によってルールが定められています。会社法が定めているのは、そのような取引を行う、会社自体の組織・運営についてです。ですから、会社法の条文の中には、実際の社会において、営業活動をしている営業マンや、店頭で物を売っている店員さんといった会社の従業員はほとんど登場しません。
会社は、利益を上げることを目的として設立され、活動します。しかし、利益のためであるからといって何をやってもよいということにすると、ずさんな経営を行って、その会社に利害関係を有する人、例えばその会社を作った人や、会社と取引をした人に損害を与えてしまうことになりかねません。会社法は、そのような会社を取り巻く関係者の利害を調整するため、会社の組織・運営に一定のルールを定めているのです。
第2 かつての有限会社はどこへ?
 1 特例有限会社
有限会社法が廃止されて、今後は有限会社を設立することができないといっても、現実に存在している会社の半分以上が有限会社ですから、現存する有限会社を規律する法律がなくなったままにすることはできません。そうであるからといって、今までの有限会社の制度とは全く異なった制度を既存の有限会社に対して強制してしまうと、これまた大きな混乱を引き起こしてしまいかねません。そこで、会社法の成立にあわせて、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(整備法)を定め、従来の有限会社について、このような不都合を回避するためのの経過措置を定めました。
具体的にいうと、かつての有限会社は、会社法の施行後は会社法上の株式会社として存続することになります。そのため、かつての有限会社における持分(=社員の地位)は株式会社の社員の地位である株式とみされることになります。また、会社の内部についてのルールについては、実質的に有限会社法の規律が維持されるとともに、会社の名前(商号)についてもそのまま「有限会社」の文字を用いるべきことになっています。
要するに、旧有限会社は、法律上は株式会社になりますが、社会における実態としては今までと何も変わらず、以前通りの会社運営を行おうとするならば、以前通り経営することができるということになります。なお、このように整備法の特則の適用がある旧有限会社のことを整備法は「特例有限会社」と呼んでいます。
おおよそ以上のとおりですから、会社法施行の以前からの有限会社は、施行後も「有限会社」と名乗ればよいことになります。
2 特例有限会社と株式会社の具体的違いは?
以上のとおり、既存の有限会社は特例有限会社として、実質的に旧有限会社のままでの存続することになりますが、通常の株式会社とは異なり、取締役・監査役の任期がないこと、決算公告が不要であることが、実際上重要なものとしてあげられます。
しかし他方で、特例有限会社のままでは、会社の組織として取締役と監査役の設置が認められるのみで、取締役会、会計監査人、会計参与といった機関を設置することはできません。これらの機関を設置したければ、整備法の特例の適用のない通常の株式会社へと移行するほかありません。
 3 どっちが得か?
特例有限会社から株式会社になるためには、特例有限会社も会社法上の株式会社ですから、組織変更ではなく、以下の手続きを取ることになります。すなわち、商号が「有限会社」となっている定款を「株式会社」に変更し、特例有限会社の解散登記及び株式会社の設立登記をすることになります。言葉で言えば簡単ですが、特例有限会社のまま経営を続けるのと株式会社へ定款変更するのではどちらがメリットが多いのでしょう。
仮に会社法施行の以前のとおり会社経営を続けるというのであれば、整備法による特例が続きますから、特例有限会社のままで十分であるということになります。むしろ、株式会社に移行すれば定款変更と登記の費用と手間、機関を変更すればその機関を選任する費用と手間がかかりますし、先に述べた取締役・監査役の任期がないとか決算公告が不要であるといった特徴が失われてしまいますから、取締役・監査役の再任の登記や決算公告の費用・手間もかかってしまいます。
しかし、今後、株式を公開して会社の規模を拡大することを考えていたり、監査の機関を充実させ、取引先や銀行からの信用を向上させたいと考えているのでしたら、いますぐ株式会社へ移行すべきかといったタイミングの問題は別にあるにせよ、株式会社へ移行することは会社にとってメリットがあるといえるでしょう。
これらの事情は、それぞれの会社によって異なるでしょうから、一概にどっちが得で、どっちが損ということはいえないのです。
第3 株式会社を作る
 1 株式会社を作るメリットって?
会社を設立するのは、何らかの事業を行って利益を得ることが目的ですが、事業を行うためにはまず資金が必要です。株式会社という制度は、多くの人からお金を集めることで、より多くの会社運営資金を集めることを可能にする制度です。このようにして、会社の資金となるお金を出した人を株主といい、お金を支払うことで得られる株式会社の社員の地位を株式といいます。しかし、現実の社会には少数のしかも、きわめて密接な関係を有する株主しか存在しない株式会社、例えば、家族経営の株式会社も存在しています。これでは先ほど述べたような多額の会社運営資金を集めることはできないでしょう。では、なぜこのような場合にまで株式会社が利用されるのでしょう。
株主は、会社がどれだけ負債を抱えても、会社の債権者への支払いを強制されません。実際の場面では、株主になるに際して、株主は既に資金を出してしまっているので、会社がその後債務を抱えても、その既に支払ったお金が返ってこなくなることはあっても、それ以上の負担は負いません。このように、株主が会社者に対する債権者に対して直接債務を負わず、買い主が負う責任が、株主が支払った額に限定されることを間接有限責任といいます。この間接有限責任は、会社を設立してお金を出す人にとっては大きなメリットといえるでしょう。
なお、実際の問題として、一人の株主が同時に取締役として経営している会社の場合に、その取締役自身が会社債務の保証人になったり、その財産を担保にしたりすれば、結局は株主自身が責任を負うのと同じことになってしまいますが、これは一応別個の話です。
また、株式会社を名乗ること自体がそれなりの価値を有することも実際の社会ではあるようです。取引において本当に重要なのは、会社の名前ではなく、その会社がどれだけの財産を有しているかではないかとは思いますが、このような事実上のメリットが少なからずあることも少数の株主しか存在しない株式会社が存在している理由のひとつなのでしょう。
 2 会社を作る手続
株式会社を設立する手続は、おおよそ@定款を作成A社員の確定B機関の具備C設立の登記、という手続になります。
定款とは会社の基本的規則であり、会社法上定款に記載しなければならい事項と、必ずしも記載する必要はありませんが、記載することで効力を持つ事項があります。例えば、株式に譲渡制限を設けようとする場合には、その旨を定款に記載しなければなりません。
次に社員の確定ですが、ここでいう社員とは、従業員ではなく株主のことです。株主になろうとする者が出資をすることで、社員が確定します。なお、出資金について、会社法では、最低資本金制度といわれる制度が廃止され、出資は1円でもよいことになりました。そうすると、お金のない者でも株式会社が設立できると思えますが、登記などの費用がかかるので、既に個人で営業をしていて、設備等はすべてそろっていても、少なからずお金がかかります。
そして、会社の運営に必要な機関を備え、設立登記をすることで会社が成立することになります。
以上が会社の設立で、大規模な会社ではさらに、支配人等の従業員を雇うなどして具体的な活動にはいることになります。
 3 会社の機関
では、株式会社を設立するのに必要な機関にはどのようなものがあるでしょうか、それぞれ簡単に見てみることにします。
なお、以下の説明において、「大会社」であるとか、「公開会社」という言葉を使用しますが、これらは、会社法自身が、機関の設計に際して用いている株式会社の区分方法なので、ここでもその区分にならうことにします。大会社とは、資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社で、公開会社とは、定款で株式譲渡制限をしていない会社とここでは理解しておいてください。そして以下の説明では、大会社以外の会社を「中小会社」とし、公開会社以外の会社を「非公開会社」と呼ぶことにします。
(1)株主総会
株主によって構成される機関で、取締役会の有無によりその権限に差が設けられています。まず、取締役会が設置されていない株式会社では、会社法に規定する事項および株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議できます。他方で、取締役会が設置されている株式会社では、会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限り決議をすることができます。
このような違いがある理由をごく大雑把にいうと、取締役会を設置していない株式会社では、少数の密接な関係がある株主で構成されるであろうから、株主全員で会社に関するすべての事項を決定することが可能であるし、そうすることで株主の利益を実現できるとかんがえられるので、株主総会に広範な権限を与えました。しかし、取締役会を設置している株式会社では、株主の数が多数になることが多いと考えられますから、株主全員で会社に関することのすべてを決定するのは困難ですし、迅速な取引には不適切ですらあると考えられるので、株主総会が決定できるのは会社に重大な影響があるような限られた事項にして、あとは経営の専門家である取締役に任せることにしているのです。
(2)取締役・取締役会・代表取締役
旧会社法では、株式会社には取締役会が必須でしたが、会社法では、取締役会を設置しないことも可能になりました。取締役会のない株式会社では、取締役が会社の業務を執行し、取締役が複数いる場合にはその過半数で業務執行を決定します。もっとも、いずれの場合も。定款で別段の定めをすることができます。取締役は各自会社を代表しますが、取締役の中から代表取締役を定めることもでき、その場合は代表取締役が会社を代表することになります。
取締役会のある会社では、3人以上の取締役からなる取締役会で業務執行の意思決定をして、代表取締役、業務執行取締役(取締役会の決議で会社の業務を執行する取締役として選任されたもの)が会社の業務を執行します。取締役会のある株式会社では、必ず代表取締役を選任しなければならず、代表取締役が会社を代表します。
取締役会の有無で業務執行の決定方法や会社の代表に若干の違いがあり、説明が複雑になってしまいましたが、大雑把に言えば、取締役・取締役会・代表取締役が会社の業務の運営を行っているということです。
今回の会社法の施行で、内部統制システムという言葉が取り上げられています。「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」について、大会社は決定を義務づけられため、その対応を余儀なくされたので大きく取り上げられたと考えられます。この決定は、取締役会のある会社では取締役会で、取締役会のない会社では取締役がしなければなりません。
中小会社にはこの規定の適用はありませんが、そうであるからといって業務の執行体制がいい加減なものであっていいわけではなく、適切な業務執行体制が求められるのは当然です。
(3)監査役・監査役会
監査役は、取締役(および設置されていれば会計参与)の職務の執行を監査、すなわちチェックする機関であり、監査役会は3人以上の監査役によって組織されます。チェックの対象は、原則として会計のみならず会社の業務全般に及びます。
(4)会計参与
会社法によって新たに設けられた機関で、取締役と共同して株式会社の計算書類等を作成します。あくまで計算書類等を作成するのであって、監査するのではありませんから、監査役とは区別されます。会計参与になれるのは、公認会計士・監査法人・税理士・税理士法人に限られています。
計算書類等の作成に会計の専門家の関与が強化されることで、取引先や銀行からの信用が高まると考えられますが、会計参与になる公認会計士らにも、例えば任務を怠れば株主代表訴訟の対象となるなど大きな責任を負うこととなりますので、会計参与制度がどの程度利用されるかは、今後を見てみないとわかりません。
(5)会計監査人
会計監査人は計算書類等の監査、すなわち会計のチェックを行う者です。その権限は、監査役と異なり、会計監査に限定され、業務監査一般には及びません。会見監査人になれるのは、公認会計士か監査法人に限られます。
(6)委員会・執行役・代表執行役
会社法は、機関設計として、委員会設置会社という会社になること認めています。この委員会設置会社になると、取締役会と会計監査人を置くことが必要になるとともに、監査役・監査役会を置くことができません。委員会設置会社になると、指名委員会・監査委員会・報酬委員会の3委員会が設置され、取締役の中から各委員会に3人以上の委員が選ばれます。指名委員会は、株主総会に提出する取締役の選任・解任に関する議案の内容について決定します。監査委員会は執行役、取締役および会計参与の職務執行の監査などをします。報酬委員会は執行役及び取締役の個人別の報酬を決定します。会社の業務の執行は取締役会が選任する執行役に委ねられ、会社の代表は取締役会決議で執行役の中から選ばれる代表執行役が担当します。
要するに、委員会設置会社では業務の執行が執行役に委ねられるとともに、取締役会の機能が監督中心になり、業務の監督と執行が分離されることになります。(もっとも、取締役が執行役を兼任することはできるので、完全な分離とはいえません。)
 4 会社の機関設計
会社法には、以上のような機関が規定されていますが、問題はこれらの機関をどのように組み合わせるかです。何十人の取締役がいて経営にあたっているような会社もあれば、何人かの取締役がいるといっても、名前を貸しているだけというような会社もあります。(特に旧会社法の株式会社においては、少なくとも取締役3人、監査役1人が必要でしたから、名義借りのようなケースが見られたのです。)このように株式会社といっても、その規模は様々ですから、それぞれの会社に応じた会社の機関の組み合わせが認められる必要があります。そこで会社法は、それぞれの会社がその必要に応じて、会社の機関を選択する余地を認めつつ、会社の規模が大きくて多数の利害関係人を生じることが予想される会社については、ずさんな監査体制を認めるのは妥当ではないので、選択に一定の制限を設けることにしました。すなわち、大会社かつ公開会社については、多数の利害関係人(株主や取引先)が生じるので、会社の業務や会計が適切に行われるように十分なチェック体制を有する機関設計のみを認め、他方で、中小会社かつ非公開会社については、より簡素な機関設計も含めて多様な機関設計を認めました。
その結果、大会社かつ公開会社については、旧会社法と同じ機関設計を認めたうえ、任意で会計参与を設置できるにとどまります。他方で、現実の社会に多数存在する、中小会社かつ非公開会社においては、たとえば、従来の有限会社に相当するような、取締役のみが存在する会社にすることもできますし、一般に大規模公開会社向けといわれる委員会設置会社を採用することも会社法上は可能です。
しかし、たとえば少人数の家族で経営しているような会社において、委員会設置会社の機関に必要な人数を確保したうえ、委員会設置会社が本来予定しているような機関相互の監督を行うことは困難ですし、そのような組織が、少人数での小回りのきく経営に必ずしも合致しているとはいえません。また、組織を作ったりすることにかかるコストも中小会社には大きな負担となります。機関設計は、たくさんの組み合わせが存在するから、そこから好きに選べばよいというものではなく、自分の会社の実態・必要性に照らして、どの機関を選択するのがその会社にとって最善かということなのです。
第4 会社を運営する
 1 会社の業務の運営
業務の執行は、機関のところで説明したように、取締役・取締役会・代表取締役によって行われることになります。(委員会設置会社では執行役・代表執行役になります。)もっとも、会社の運営にはお金が必要です。会社を設立するに際しての出資があっても、さらに資金が必要となるケースもあるでしょう。そこで、まず、会社運営のための資金調達手段を見てみることにします。
 2 資金の調達
(1)新株発行
株式とは、株式会社における社員の地位のことで、従業員のことではありません。会社を設立した後に、新たに株式を発行して、資金を集めるのが新株発行です。新株発行に応じて株式を引き受け、お金を払った人は株主になり、払われたお金は会社の資金となるので会社はこれを返済する必要がありません。これが後で述べる社債や金融機関からの借り入れとの大きな違いです。
会社法は、株式の発行による資金調達をより柔軟に行うため、会社や株主の様々な要求に応える、一定の事項について内容の異なる種類の株式(種類株式)の発行を認めています。例えば、会社の経営には関心がないが経済的利益には関心があるというような場合に、議決権はないが剰余金(利益配当)の配分については優先するという株式を発行すれば、資金を集めることがより容易になるというわけです。
(2)社債
社債とは、会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、募集社債に関する事項についての定めに従い償還されるものと会社法は定義していますが、要するに多数の者からの借金ということです。社債は結局のところ借金ですからいつかは返さなければなりません。
社債を用いることで、多数の者から少しずつお金を借り、結果として多額のお金を集めることができますが、たくさんの債権者を作ってしまうので、会社法はこれら債権者を社債権者と呼び、集団としてまとめて扱うことにしています。
(3)金融機関からの借り入れ
もちろん業務の執行の一つとして、会社が金融機関から融資を受けることもできます。
 3 新株予約権とは?
新株予約権とは、会社に対して行使することにより、その会社の株式の交付を受けることができる権利です。新株予約権が発行された場合は、株式を得るのが未来になるという点で新株発行と違いがありますが、将来的に権利が行使されれば新株が交付されるので、実質的に見れば株式を発行するのと変わらないともいえます。新株予約権は、将来の行使があってから株式が交付されるという特徴から、資金調達のみならず、他の目的にも利用され、その利用方法の一つが近時話題になっている買収防衛策なのです。
 4 経営失敗の責任は誰が取る?
取締役・監査役等は、会社との関係では民法上の委任の関係ありますから、その任務を怠って会社に対して損害を負わせた場合には会社に対して責任を負います。加えて、会社の取引と競合する取引など、一定の場合にはその責任について特別のルールが規定されています。もっとも、株主総会決議などでその責任を軽減することもできます。
取締役・監査役等が任務に違反して、第三者(株主や会社債権者)に損害が生じた場合には第三者に対しても責任を負います。
これに対し、株主は自己の出資の限度でしか会社の債務については責任を負いません。(間接有限責任)実際には、株式を引き受けるに際してお金は支払ってしまっているのですから、事後的に株主が責任を負うことは、原則的にはありません。ここで、「原則的」といったのは、もちろん例外的に株主が責任を負うような場面も存在するということです。例えば、会社という制度を自分の責任逃れのために利用したと認められるような場合です。
第5 会社組織の再編
 1 会社法の規定
会社法上、組織再編行為として組織変更、合併(吸収合併・新設合併)、会社分割(吸収分割・新設分割)、株式移転、株式交換が規定されています。
組織変更とは、株式会社が持分会社に変わること、及び、持分会社が株式会社に変わることをいいます。持分会社の間での変更、たとえば合名会社が合資会社になることは組織変更ではなく、定款の変更による持分会社の種類の変更といいます。

A株式会社   ⇒   A合同会社

合併とは、2つ以上の会社が契約によって1つの会社に合体することをいいます。そのうち、合併の当事会社のうち1つが存続して他の消滅する会社を吸収する場合を吸収合併、当事会社のすべてが消滅して新しい会社を設立する場合を新設合併といいます。このような合併は、会社の規模拡大や競争力強化などを目的として用いられます。

吸収合併:A社がB社に吸収合併
A株式会社    B株式会社   ⇒   B株式会社
新設合併:A社とB社がC社を設立して合併
A株式会社    B株式会社   ⇒   C株式会社

会社分割とは1つの会社を2つ以上の会社に分けることをいいます。そのうち、分割された事業を既存の会社に承継させる場合を吸収分割、新しく設立した会社に承継させる場合を新設分割といいます。会社分割は、多角経営化した企業の合理化や不採算部門の独立などを目的として利用されます。

吸収分割:A社のa事業を既存のB社へ分割
A株式会社(a、b事業)    B株式会社(c事業)

A株式会社(b事業)      B株式会社(a、c事業)
新設分割:A社のa事業を新しく設立したC社へ分割
A株式会社(a、b事業)
 ↓
A株式会社(b事業)      C株式会社(a事業)

株式交換、株式移転は、会社が他の会社の株式を全部取得し完全親会社を作るための手続です。完全親会社とは、ある株式会社の発行済み株式のすべてを保有している会社のことをいいます。(逆にすべての株式を保有されている会社を完全子会社といいます。)完全親会社となる会社が既存の会社である場合を株式交換、新しく設立する会社である場合を株式移転といいます。

株式交換:B社がA社の完全親会社になる
A社株主                   B社株主
B社株式をA社株主へ

A社株式をB社へ

A株式会社           B株式会社

以前からのB社株主
旧A社株主だったB社株主

B株式会社=A社の株主(完全親会社)

               A株式会社(完全子会社)
※株式移転の場合は、完全親会社は新たに新設されるので、以前からのB社株主は存在しないことになります。

 2 会社の買収
会社法の施行に前後して、企業買収が大きく報道され、世間の注目を集めました。企業買収するとは、ある会社が他の会社の株式の過半数を取得して会社の支配権を移行させることです。会社を支配したあとで株式交換を用いれば、完全子会社化するということもできるのです。この買収を英語でacquisitionといい、先ほど述べた合併を英語でmergersというので、これらの頭文字をとってM&A(合併と買収)です。
 3 対価の柔軟化って?
会社法の施行で「対価の柔軟化」ということが話題となっていますが、対価の柔軟化とはこの組織再編行為の場面で問題となります。簡単に説明すると、吸収合併、球種分割、株式交換の場合において、消滅会社等の株主等に対して、存続会社等の株式を交付せず、金銭その他の財産を交付することを認めたことを、対価の柔軟化といっているのです。上記の株式交換の図で説明すると、A社の株主に対して、B社の株式ではなく、金銭その他を交付することを認めたということになります。
なお、この対価の柔軟化についての規定は、2007年の5月に施行されます。
第6 持分会社
 1 持分会社の種類
会社法は、株式会社の他に持分会社として、合名会社、合資会社、合同会社の3つを認めています。合名会社と合資会社は旧会社法でも認められていましたが、合同会社は、会社法で新たに認められた会社です。
持分会社に共通する特徴としては、会社の内部組織や運営に関し、法律上の規制が少なく、定款で自由に決められることです。持分会社は、小規模な会社を念頭にしていますので、そのような小規模な会社が柔軟な経営を行うことができるようにするためです。
 2 合同会社
持分会社の中で合同会社の特徴は、合同会社の社員が、株式会社の株主と同様に、有限責任しか負わないところにあります。合同会社の社員にとっては、有限責任しか負わないことは大きなメリットですが、反面、合同会社と取引をする会社債権者等としては、債権の担保が会社財産だけになってしまい、不利であることになります。そこで、計算書類等の作成を義務づけたり、会社設立時に出資を全額払い込むことを義務づけたり、利益配当の規制をするなどの債権者保護の規定を設けて、社員と会社債権者のバランスをとっています。
 3 合名会社・合資会社
これに対して、合名会社の特徴としては、社員が無限責任を負うことです。無限責任を負う社員は、会社財産で債務を完済できない場合には、社員が会社の債務を支払わなければなりません。他方で社員が無限責任を負うことから、計算書類等の作成は義務づけられるものの、利益分配は自由とされ、合同会社に比べれば債権者保護のための規制が緩やかになっています。
合資会社は、無限責任を負う社員と有限責任しか負わない社員の両方が存在する会社です。合資会社にも無限責任を負担する社員が存在するわけですから、合資会社も合名会社のところで述べたのと同じ特徴をもっています。しかし、それでは有限責任しか負わず、しかも、合同会社の有限責任社員とは異なって出資の全額払い込みを義務づけられない有限責任社員が一方的に得をしてしまうことになります。そこで、利益がないのに配当した額は利益は出資の履行分から控除されるなど、会社債権者とのバランスを保っています。