新人弁護士研修講座のご案内
           2015年11月20日


 私高村が当事務所に入所して3か月になろうという7月のある日、所長がこんな話を持ち出されました。
 曰く、大学の同窓で、名古屋市内の私立大学法学部の民法教授をしている友人がいる。この友人は来年には定年を迎え、その後は弁護士を開業することを考えているが、弁護士実務経験が全くない。そこで、友人のよしみから、当事務所において弁護士実務の初歩的な研修を受けることを希望している。
 当事務所では、世で言う「ノキ弁」を「塾弁」と呼び換えて、新人弁護士を一人前になるよう教育・訓練を行っています。「人に教えることは自分の勉強にも有益である。」との所長の考えの下、「塾弁」一年生の私が、所長と共にその大学教授を指導させていただくこととなりました。
 スケジュールは2週間、実働10日間の計80時間。弁護士実務の基礎を一通り全て教えることとしました。このスケジュールに従って、教授は今年の8月から9月にかけて当事務所に通われ、この研修を優秀な成績で卒業されました。来年春からは近畿地方の某県で弁護士を開業するご予定で、開業当初から大いに活躍されるであろうとの所長のお墨付きをいただいております。

 研修のカリキュラムは次のとおりです。

@ 各種書式の導入
A 各種書類の取得(戸籍関係、登記関係、固定資産評価証明書、等)
B 弁護士会照会(23条照会)
C 訴状等の提出
D 内容証明郵便
E 弁護士報酬
F 記録謄写
G 電話会議
H 民事調停・家事調停
I 各種ADR
J 予納金
K 仮処分・仮差押えの申立て
L 遺言作成
M 国選弁護・当番弁護
N 法テラスの利用(民事法律扶助、刑事被疑者弁護援助)
O 弁護士会各種委員会活動

 弁護士になるためには、司法試験の合格と1年間の司法修習が必要要件となっています。現行法上、法律学研究の大学院の設置されている法学部の教授の職に一定期間あった者は、司法修習に代替する約1月半の研修を受講することで、弁護士資格の認定を得られます。その中でも、平成20年3月31日以前に在職期間が5年に達していれば司法試験の合格は要件とされず、平成16年3月31日までに5年の在職期間が経過していれば代替研修の受講も要せずに弁護士資格が付与されます。
 所長曰く、試験・修習を経ずに弁護士資格を得た大学教授は実務経験が乏しく、登録してもまず使い物にならない。司法修習を修了した新人弁護士も、かつては2年間かけて行われていた司法修習が1年間に短縮された影響で、十分な経験を積む機会のないまま弁護士資格を得ているのが実情であり、就職先の法律事務所で充実した指導を受けない限り、弁護過誤事件を起こすことは必至であろう。

 そこで、上述のカリキュラムによる大学教授の研修が修了した後、所長は次のようなアイディアを示されました。
 曰く、このように弁護士資格は得たものの実務能力に乏しい新人弁護士を対象に、研修講座を開設することは意義があるのではないか。例えば、若い頃に司法試験に合格した後に官界や経済界に転じて活躍し、退職後の余生を弁護士として送りたいと考えている人が相当数いるはずである。現行の1年間の司法修習を修了した者の中にも、就職先が見つからない等の理由からいわゆる「即独」を考える者がいる。乏しい実務経験では恥をかくし、評判を落とした上に弁護士資格を失うことにもなりかねない。友人である教授には無料で奉仕したが、同じスケジュールのコースで50万円の価格設定とすれば、事務所としても損にはならないであろう。

 このような経緯から、当事務所において新人弁護士研修講座を開設する運びとなりました。
 このホームページをご覧になって興味を持たれた方は、当事務所の高村までお問い合わせ下さい。

 なお、現行の司法制度に対しては、所長は次のような意見を述べられています。
 曰く、現行制度下の1年の司法修習では、法曹としての基礎を培うのに全く不十分である。弁護士であれば、法律上・手続上の知識にとどまらず、依頼人や相手方との折衝、報酬のとり方、あるいは弁護士として許されない違反行為にも知悉していなければならない。これらは「イソ弁」になれば所属事務所の弁護士から学ぶことができる事柄だが、事務所によってはそのような機会に十分に恵まれない者もいるし、「即独」をした弁護士の場合はこれらの基本ができないのが通常である。
 加えて、近年の新人弁護士は、経済的にも困窮している者が少なくない。大学・大学院時代の奨学金、司法修習の貸与金等で、何百万円もの借金を背負った状態から弁護士を始める者もいる。「貧ずれば鈍する」の言葉もあるように、自らがお金に困っているようでは社会正義の実現も覚束ない。このような現状は、司法改革で法務省と裁判所が文部省を引きずり込んだためである。司法改革は法務省と裁判所と弁護士会が行うべきであるにもかかわらず、私立大学の経営と密接な関係にある文部省の参画により、私立大学が教育事業に対して高額な授業料を取ることを可能にさせてしまった。
 所長の時代は、大学を卒業後に新聞配達店の寮に住むなどして給料をもらいながら司法試験を受け続ければ借金ゼロで弁護士になることもできたものだが、費用のかさむ法科大学院の制度化がこの道を閉ざしてしまった。前途有望な学生を法曹界から離れさせたのは司法改悪に他ならず、全72校も乱立された法科大学院のうち29校が廃校に追い込まれている現実を見ても、法務省と文部省の責任は重大である。