国際法とウクライナ戦争(令和4年8月の戦況)


名古屋市中区丸の内2−18−22三博ビル8階 宮 道 佳 男 法 律 事 務 所
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2022年8月19日 宮  道  佳  男


第一  2022年2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻し、ウクライナ・ロシア戦争が勃発した。2014年ロシアはウクライナ領クリミアを武力占領しているから、ロシアによる第二次ウクライナ戦争と言える。
 ウクライナでは、ロシア軍が市街地に対する無差別攻撃を行い、非戦闘員である市民多数が死亡している。

 戦争を規制する法はないのか。古来、戦争を規制する法はなかった。殺人、略奪、強姦は合法であった。勝者は無罪であり、賞讃される英雄であった。

 19世紀末以降、世界の文明は人道主義の観点から進歩し、戦争を規制する国際法が国際条約で制定された。これを戦時国際法という。これを簡単に説明する。


第二 戦時国際法の概略
(1) 1907年ハーグ条約
@ 市街地、学校、協会、病院、歴史上の記念建造物への攻撃の禁止
A 略奪の禁止


(2) 1922年ハーグ空戦規則
@ 落下傘で避難降下中のパイロットに対して攻撃の禁止

(3) 1925年ジュネーブ条約
 @ 毒ガス使用禁止

(4) 1949年ジュネーブ条約
@ 捕虜の保護
A 弁護人を付した戦犯裁判による、違法行為をなした軍人への処罰
B 過度の傷害又は無用の苦痛を与える兵器(毒ガス・ダムダム弾)の禁止
C 女子・児童の保護、強姦の禁止、15歳未満の少年兵の禁止


第三 ウクライナ戦争の実際
 戦時国際法に違反する事件が多数発生している。特に、戦争犯罪人に対する裁判(戦犯裁判)が報道されていることが新奇である。
 これまでの戦争では、戦後に戦犯裁判が実施されたことがあったが、戦時中から戦犯裁判が開廷されたことは稀であった。
 報道された一例は、ウクライナの老人を射殺したロシア兵に対して、戦犯裁判が開かれ、ウクライナ人弁護士の立会いのもと、審理され無期懲役の判決が下された例。
 ロシア軍の捕虜となったウクライナ兵士に対して、傭兵であることを理由にロシア軍主催の戦犯裁判が開かれた例。判決結果については未報道である。
 ロシアが戦犯裁判をするとしても、そもそも罪刑法定主義のない国なので、裁判が公平、公正になされる保証はどこにもない。かつて、シベリアで日本人捕虜に対する多数の軍事裁判がなされたが、弁護人なし、公開なしで不当な裁判であった。
 

第四 戦犯裁判とは何か 
(1)第二次大戦中から始まった
  第一次大戦中、フランス市民を虐殺したドイツ兵に対して、戦後、連合国軍主催の戦犯裁判が計画されたが、ドイツの反対があり、結局ドイツの国内裁判所で戦犯裁判が実施されたが、軽い刑に終わってしまい、実効性がなかった。
(2) 第二次大戦では、ドイツ国内裁判の反省から、各国で戦犯裁判が始まった。
  その第一は日本である。
  1942年4月、アメリカ空母から発進したアメリカ爆撃機隊ドーリットル隊は日本各地を無差別爆撃して中国へ去ったが、不時着した米兵8人が捕虜となった。彼らは東京で小学校を銃撃して小学生を含む87人の民間人を殺した。
  日本軍はこれを国際法違反とみなし、米兵捕虜を上海軍律法廷に起訴した。判決は三人に対して銃殺刑であり、三人は処刑された。
  これが前例となり、1945年日本各地の市街地を無差別爆撃して捕虜となったアメリカ空軍兵士は次々と日本各地で戦犯裁判に起訴され、死刑に処せられた。名古屋では、米兵11人が処刑された。
  日本は米兵に対する戦犯裁判を行うときに、重大な間違いを犯していた。戦犯法廷を軍機密として非公開、弁護人なしとしたことである。このため、中立国の新聞記者が傍聴して世界へ報道されることもなく、米兵は無差別爆撃したら銃殺刑となると教えられることもなかった。知っていたら、市街地への爆撃をためらったであろう。米空軍上官は、兵士たちに日本軍の捕虜になったときの心得を教示しなかった。
  裁判の公開とは、正義に関わることであり、軍の秘密という理由で非公開とした日本軍のやり方は重大な損失をもたらした。
  戦後、横浜のBC級裁判で、米兵への処刑を指令した日本人師団長は絞首刑に処せられている。
  1945年西部戦線での独兵の軍服偽装事件
  南京占領中の弁護士将校が風紀事件で軍法会議で懲役5年実刑となった例。旅順刑務所。私利私欲に走ったから有罪となったが、乱戦の最中に強姦した兵士に対して軍法会議に起訴された例は少ない。


第五 改められた国際法、改められなかった国際法
(1) 第一次大戦から第二次大戦の戦間期に締結された国際法条約に無差別攻撃の禁
止、非戦闘員の保護があるが、1939年第二次大戦の開戦とともに、ヒトラーのイギリス爆撃とチャーチルのドイツ爆撃の応酬により簡単に反古にされた。双方とも無差別爆撃の禁止という国際法を言うことはなくなった。
  無差別爆撃の禁止という国際法は改められ、消滅したのである。ウクライナでは現在市街地にミサイルが大量に撃ち込まれている。改められた国際法によれば合法になってしまった。プーチンをこの件で戦犯裁判にかけることは困難となった。イラクのサダム・フセイン大統領の元気な頃、大量殺害兵器の禁止ということが、国際法で議論され始めたが、フセイン処刑の後、この議論は消えてしまった。
  プーチンは核兵器を用いるであろうか(戦術核兵器)。
  広島・長崎以来、原爆が違法だとする国際法はない。アメリカのトルーマン大統領は1945年に広島と長崎に原爆を投下したが、戦後今日までトルーマンの原爆投下を国際法違反だとし、トルーマンを有罪とする国際法会議は存在していない。

〈 トルーマン・スタンダード 〉
 プーチンは、トルーマン・スタンダードを引用し、広島・長崎型の小型核兵器は合法だと言い出す筈である。今のところ、プーチンは通常兵器だけでウクライナ戦争を勝利できると予測しているから、今の状況のままだと核兵器を使用しないであろう。しかし、ロシアが劣勢となり、ウクライナ軍に包囲されたら、プーチンは小型核兵器を用いるであろう。そして、トルーマンと同じことをしただけトルーマンは原爆投下にためらいはなかった「私はチキンではない」、と言うであろう。当然、アメリカがトルーマンに有罪と言う筈がない。
 放射能が恐ろしくないのか。ロシアはチェルノブイリ原発で放射能慣れをしている。何万人も被爆して癌になっても、苦にはしていない。広島も長崎も立派に復興していると嘯くであろう。戦後、日本政府が広島・長崎を立ち入り禁止の墓地、祈念公園にしなかったことが悔やまれる。
 核兵器禁止条約はあるが、核兵器保有国は加盟しておらず、核兵器使用の禁止に拘束されない。プーチンの手をしばる国際法はないのである。

(2)「国際紛争を解決する手段としての戦争は禁止する」
 これは第二次大戦後、確立された国際法である。しかし、プーチンは2014年クリミアで、2022年ウクライナでこれを破った。「領土問題を解決する手段としての戦争」を肯定し、世界から支持を取り付けたのである。
 国連ウクライナ決議では、ロシア批判への棄権票が多かった。特にアジア・アフリカの国々が多かった。皆、領土問題を抱えている国々である。中東やアフリカには国境が緯度経度に平行な国が多い。植民地宗主国が民族分布など度外視して植民地国境を定めたためである。この結果、領土紛争を戦争で解決したいと思っている国が相当ある。
  サダム・フセインはクウェートを侵略したが、英米の多国籍軍は直ちに反撃に出て、サダム・フセインの領土拡張の野望を阻止した。ウクライナに対しては武器援助するのみであり、プーチンの威力の前に西側NATO諸国と国際法が後退したというしかない。
 国際法というものは確立されておらず、その時の情勢により変動するのである。

第六
 中国は台湾を攻めるか
領土問題であるから、中国は軍事力で台湾を攻める可能性はある。しかし、2つの
問題をクリアしてからである。中国は今攻めるほど馬鹿ではない。
(1) 有人月ロケットを成功させ、世界一の科学国家として世界から賞賛されること。

(2) 一帯一路を完成させ、ウイグルからカスピ海、中東地中海、アフリカまで、中国経済圏を完成させること。
 現在、中国はマラッカ海峡から原油をタンカーで運んでいる。一帯一路を完成させれば、これが不要となるし、アフリカから中国までを自国同様の経済圏にすることが可能となる。
 これに伴い、ロシアは弱体化する。中国はロシアからエネルギーを買い叩くことができる。中国一帯一路経済圏はロシアよりも巨大な完結された経済圏となり、中国共産主義はロシア共産主義を超える。マルクス、レーニン、スターリンの後継人となり、国際共産主義の本家となり、資本主義と対決する。
台湾への侵攻はその後である。

第七 誰と誰との戦争なのか
 共産主義 VS 資本主義(ナチズム)
プーチンVSゼレンスキー+バイデンではない。アフガンで懲りた。バイデンは戦う気がない。武器供与しかしない。トランプならば違ったであろう。2年後のトランプの再選が心配である。プーチンVSトランプの戦争は要注意である。死にかけの老人同士の戦いとなる。

 プーチン VS ゼレンスキー
      ↓
 ロシア共産主義 VS NATO資本主義→ナチズム、反共主義
ロシア・プーチンの歴史は、マルクス、レーニン、スターリンまでたどれる。国際共産主義運動である。プーチンの目的はロシア帝国の復活ではなく、国際共産主義運動の総本山であるソ連の復活であるが、一帯一路を完成させた中国の劣後となり、中国とロシアは共産主義国として同盟し、かつ競争し、資本主義国との対決を追求するであろう。次の世紀はロシアと中国の覇権争いである。
 20世紀ロシア革命から始まった共産主義VS資本主義の戦いは21世紀にも引き続く。レーニンとトロッキーの戦いはロシアと中国へと続く。
プーチンが言う「ネオナチ」とは何のことか。

 日本はどうすべきなのか。
ロシア共産主義、中国共産主義とは縁切りして、英米EC資本主義と連帯するしかない。
 中国の台湾侵略に対しては、西側と共に戦うしかない。第三次大戦はありうる。日本企業の中国進出は手控えられるべきである。日本企業は、一帯一路ゾーンに進出すべきではない。ここでの中国との紛争は戦争の原因となる。インドネシア、南米、北米、オーストラリアに限定すべきである。中国は因縁をつけるのが上手である。
 君子、危きに近寄るべからず。

第八 ウクライナ戦争終結の方法
 戦争の原因は、ウクライナの一地方の領土紛争である。ならば、国連の選挙監視団の監督の下、住民投票でロシアかウクライナかの帰属を決めればよい。一応、民主主義、住民自治の原則には合致している。住民投票で領土の帰属を決めたことはいくつも前例がある。ウクライナが善戦しすぎると、プーチンの核兵器を使うという狂気を招くようになる。一旦、これで解決しておかないと、核兵器で30万人の戦死者が出ることになる。
 ウクライナ愛国主義者はあくまでも戦うと叫ぶであろう。ゼレンスキーが彼らをなだめてまとめきれるかが問題である。一時負けたふりをして平和を回復し、軍備を貯えてプーチンの死を待つ余裕が必要である。
 2014年クリミアをロシアに盗られても、開戦せずに静観してきたのであるから、東南部州を更に選挙で盗られても我慢できない筈はない。大量戦死者の犠牲を回避するために、偽りの平和を忍ぶべきである。
 1939年、ソ連はフィンランドへ侵攻し、フィンランドは善戦し、結局、国土の1割を割譲することで和平を獲得したという前例がある。
 ICC(国際刑事裁判所)による戦争犯罪法廷で、プーチンやロシア軍人を裁判する方法はありうる。ユーゴスラビアではあった。
 しかし、ロシアはICCに加盟していないし、EUの検察官の捜査に対して徹底的な妨害をするであろうから実現の見通しは0(ゼロ)に等しい。ナチス高官を裁いたニュルンベルグ裁判、東条英機を裁いた東京裁判は理想だが、ロシア相手ではありえないことである。但し、ウクライナ軍が善戦して、モスクワのプーチンを捕虜にできればありうる。ヒトラーはスターリンにベルリンで包囲され自決に追い込まれた。

第九 日本、核武装の是非
 北朝鮮、中国の核に対抗するため、日本も核武装すべきであるという議論がある。非核三原則は守られるべきである。日本が核武装すれば、北朝鮮に核攻撃の口実を与えることとなる。日本は史上三発目の被爆国となり、何十万人死亡するであろうが、耐え忍ぶべきである。アメリカが北朝鮮へ報復ミサイルを打ち込むことを期待するしかない。
 日米安保と米軍駐留は継続されるべきである。アメリカが弱気になることを一番恐れる。日本列島を地球儀で見てください。北朝鮮、中国、ロシアに接近しすぎて、防衛しにくいことが分かる。沖縄基地など、15分で全滅する。小笠原諸島まで防衛線を下げるべきである。父島、硫黄島にミサイル、海軍基地を建設し、最後の防衛線とすべきである。英米EC、日本VSロシア、中国、北朝鮮の戦争が核攻撃の第三次大戦と発展する可能性はある。世界の大勢は楽観できない。