時事評論 2 |
「 ライブドア事件 司法判断 M&A 」20070411 |
1、ライブドア事件 ライブドア裁判で、堀江社長に実刑2年6月、宮内会計担当取締役に実刑1年8月、監査法人会計士に実刑10月、粉飾決算最高責任者3人に実刑の判決が宣告されました。 大方の前評判では、執行猶予の観測でしたが、厳罰に新聞報道も驚いています。通常帳簿の事件は、行政命令違反ですから、殺人強盗窃盗の刑事事件と異なり、刑は軽いのです。スピード違反は反則金だけです。死亡事故を起こせば業務上過失致死となり重くなります。脱税事件でもたいていは執行猶予が付きます。脱税税額で3億円を超えない限り執行猶予が付くと予想できます。 何故、ライブドア裁判では執行猶予が付かなかったのでしょうか。地裁の裁判長は判決の最後にこう説示しています。 「裁判中に一般国民から裁判所へ手紙が多数来ている。中には庶民の女性からライブドアで活躍する堀江社長の姿を見て憧れ期待を込めてライブドアの株式を購入したが、暴落して売れずに大損害を受けた、との手紙があった」 裁判所はこの事件を帳簿の事件とか行政命令違反とか手続き規定違反とか、見ているのではなく、詐欺商法事件と見ているのです。インチキ商品の消費者詐欺事件と見ているのです。しかも金額は何百億円で、被害者個人一人当たり何十万円から何千万円の規模の大規模詐欺事件と見ているから、実刑の結論になるのです。判決で、証券市場の信頼を損ねたと指摘しましたが、要するに証券市場に参加する国民全体を詐欺に掛けたことに注目しているのです。 ライブドア事件は粉飾事件です。粉飾の帳簿・会計書類が証拠として存在している訳ですから、無罪を言うには元々難しいのです。子会社の株式売買益を自社の利益に付け替えるとかの手法を採用したのですが、本来ばれたのならば、あっさり認めて頭を下げるべきですが、堀江社長は色々弁解したり、中には検察ファッショとか言い出して検察批判までしました。これでは執行猶予が付くはずもありません。堀江社長がやるべきことは、粉飾の事実を認めるが、粉飾の詳細は経理担当の宮内取締役が単独で行ったのであり、自分は報告を受けていない、そもそも自分は会計に疎く決算書の組み方も分からない、監督の責任上の過失は大いに反省するが、こんなに大きな粉飾になっていることなど分からなかった。全部宮内取締役がやったことだと言えばよかったのです。 監督上の過失を認めて頭を下げてから弁解すれば善いのに、堀江社長は胸を張って検察批判から始めてしまったのです。粉飾事件は故意犯です。過失犯なら無罪を主張できます。この作戦でやっても、過失だから無罪の主張はできますし、頭を下げたことは事実ですから、反省が足りないから実刑にするという裁判所の考えは回避できます。堀江社長が検察批判を始めた瞬間から執行猶予はあり得ないと私は直感しました。 昔、私が弁護した脱税事件で経営者の知らないうちに会計担当者が売上金を除外して脱税をした件がありました。個人事業主の件でした。検察は、知らないはずがない、承知して指示していたのであろうと追求していましたが、会計帳簿も申告書も見たことも書いたこともない。申告書の署名も税理士事務所の事務員の字だということが分かりまして、監督上の過失責任を認める代わりに、両罰規定の罰金刑に落としてもらいました。 堀江社長も監督上の過失を認めて頭を下げ続けておれば、宮内取締役の証言いかんではよい裁判対策が取り得たのです。勿論、故意はないから無罪という判決はあり得なかったでしょうが、頭を下げている者に、反省していないから実刑という結論は出ませんから、執行猶予は取れた思います。裁判対策のやり方を間違えて、堀江社長は今や風前の灯火です。高裁でも執行猶予は取れないでしょう。全財産を被害弁償のために投げ出す位のことをすれば何とかなるかも知れません。堀江社長は大分隠し財産を持っているようですが、今投げ出す事が肝心です。実刑判決を受けて、堀江社長の立場は最悪になっいます。ライブドアからもニッポン放送からも損害賠償請求が来ています。それよりも恐ろしいのは、一般株主からの損害賠償請求です。堀江社長の相場操縦の結果、高値で株を買わされた株主からの損害賠償請求は巨額であり、堀江社長は素寒貧になるでしょう。隠し資産を抱かえていても無駄です。どうせもうすぐ破産宣告を受けて、隠し資産は破産管財人の管理するところになるでしょう。ならば今の内に隠し資産を投げ出して株主への被害弁償に当てれば、執行猶予はなんとか取れます。堀江社長は今まで思い違いをしていたのですが、改まるでしょうか。時代の寵児として持て囃され、天狗になってしまい、国政選挙まで自民党の肩入れで出馬し、世界は皆自分の味方と思いこんでしまったことが間違いの元でした。 堀江社長は司法判断の読み違いで破滅した訳ですが、遅かれ早かれ破滅したことは間違いありません。彼の手法は、実業を起こすことではなく、多角化を目指して企業買収を拡大させたのであります。一概に多角化は否定されませんが、多くの場合、経営方針が散漫になり、子会社の統治に手抜きが発生するのです。余程有能な経営者でない限り、全体の統治が出来ません。日本電産の永盛社長とか、仕事以外に趣味がないというタイプの社長にしか勤まりません。日立は子会社が何千社もありますが、統治に成功しているでしょうか。 堀江社長は企業買収をするとき、ずいぶんいい加減な判断で買収しています。買収した会社の株式分割を繰り返して高値操縦をして売却し、ライブドアの売上に粉飾計上し、数字だけを水増ししています。10の価値しかないものを100につり上げて企業価値・時価総額拡大と見せかけたのです。買収した会社は、売られるだけの理由があるのであり、しかも堀江社長は買収先企業を統治出来ていたか疑問です。経営の多角化が裏目に出て滅亡した企業が多いのです。ですから、遅かれ早かれ堀江社長の滅亡は必至でした。 2、司法判断を読み間違えて壊滅した業界 このように裁判所の判断、司法判断を誤らないことが大事であると申し上げたいのです。税理士さんの場合、税務署の言うことさえ聞いておれば間違いがないと長年の経験からお考えでしょうが、そうではない実態が生まれています。 ストックオプションの例がそうです。一時所得だと税務署が指導していたのに、いつの間にか給与所得に変わってしまい、裁判沙汰になりました。税理士は依頼者への説明に困られたと思います。航空機リース事業についても税務署の判断が裁判所により否定されました。今や監督官庁、税務署の指導に従っているだけでは、危ういのです。監督官庁、税務署の上に位置する裁判所の判断を読み切らないと間違いの被害に巻き込まれ、税理士の職責を問われます。 現在司法判断の結果、ある業界が壊滅の危機に瀕しています。やくざな業界ではありません。東証一部上場のれっきとした大企業です。武富士、アコム、プロミスといった消費者金融です。 ことの経過を申し上げます。 明治時代から利息制限法という法律があり、15〜20%の上限金利規制をしていましたが、条文の中に、任意弁済した分については、みなし弁済とする、という規定があります。上限金利は無効だが、借り主が任意で弁済した分は有効で返還請求できないというのであり、無効だけれども有効になるという分かりにくい規定になっています。 利息制限法の意味することは、上限金利を規定したものの、超える金利を承知で支払った借り主は承知のことであるから、払った過去の分については有効とする、将来は無効とする、という変則的立法形態でして、外に類例が少ないのです。背景としては、民間の貸付取引は本来自由経済、私的自治原則に従うべきであり、過度に司法が規制することはこれに違反することとなるし、貸し渋り、金融閉塞をもたらし、結果、借りたい人が金融を受けられなくなると危惧してのことです。 明治以来、これでやってきましたが、やっぱり高利貸しが跋扈し社会問題を巻き起こすことが多くなり、又利息制限法に規定する任意弁済の見なし規定の解釈を巡って判例が錯綜し、返還しなくても良い金利と返還しなければならない金利の違いが明確とならず、金融世界自体が混乱しました。そこでこれらを解決するために昭和58年に貸金規制法が施行されました。 この貸金規制法は @貸金業者の登録制を導入し、監督規定を置いた。 A貸付の時に17条書面、弁済の時に18条書面を交付するこを義務付け、その見返り として利息制限法を超える金利の受け取りを合法化した。これで年40%まで金利を取 れることにしました。現在は年29.2%です。これでも利息制限法と比較すると、多額な金利を得られます。 17.18条書面というのは、貸付の際に返済年月日、返済金額を書き込まなければなりません。10万円貸したら、毎月何日に1万何千何百円を返済するという返済予定表のことです。立法趣旨は、債務者の自主的な返済計画立案のために、いつ幾ら返済しなければならないかを明確にせよ、ということです。これが分かっておれば、無理な借り増しをしないであろう、と法が期待したということです。 昭和58年から貸金規制法が施行され、それまでの混乱が解消され、高利貸しと呼ばれていた業界が消費者金融と呼ばれ、大蔵省の監督を受け、業界団体も設立され、ダークな業界が普通の業界に変貌でき、東証一部上場ができたのです。 しかし、平成の初期から、消費者業界の知恵者がATMを貸付と返済業務に導入することと、包括契約という商品を開発しました。 包括契約とは、ある一定の貸付上限を設定して、その50万円なら50万円の範囲内で何度でも貸付と弁済が出来るという商品です。 それまでは、借り主は店頭へ来て、貸付申込書を書き、10万円を借りて、返済年月日と返済金額が書いてある17条書面を受け取り、返済日には店頭へ来て1万何千何百円を返済し、次回返済予定日と返済金額の元利別充当金額、残存債務額が書かれた18条書面を受け取るシステムでした。 ところがATMと包括契約が導入されると、借り主はATMで会員入会を申込み、会員カードを受け取る。ATMにカードを入れて何万円を借りる。次にいくらか返済して又幾らか借りることを繰り返します。常に借入元本額が変動することになりますから、返済金額は、月の金利額以上としか定められなくなります。よって17条書面に規定する返済年月日と返済金額の欄を書けなくなってしまったのです。借入の際、ATMから出てくるレシートには、貸金規制法17条書面ですから大事に保管してくださいと注意書きがしてありまり、殆どの借り主はその場で捨てていますが、このレシートには17条の要件が欠いてありますが、その内返済年月日と返済金額欄だけは、書けないから書いてないのです。 昭和58年の貸金規制法施行の時は、単発貸付だけでしたが、これを前提にして立法されました。しかし時代の進歩、機械文明の発展と共に、ATMが開発され、包括契約という新商品が生まれました。 業界としては、最初に包括契約を締結するときに、包括契約書を交付し、そこに金利、返済日、計算方法が記載されているから、何回も借り増し、中途返済をしても自分で電卓で計算すれば分かることであるから、一々の追加貸付、途中返済の時に、返済年月日と返済金額を書いた書面を交付する必要はないと判断したのです。文明の進歩に法律が付いてくるであろうと期待したのです。 業界としては、借り主の需要者からの借り増し期待は強いし、ATMが普及すれば新規店舗開設費用と事務費が合理化されるし、業界と借り主が共に喜べれると考えたのですが、甘かったのです。 それまでは借り主は恥を忍んで店頭に現れ、少額を借りて返済予定表を受け取り、以降毎月何日に現金を持って返済に来る訳でして、通りで知り合いに見られないか恐れていたのです。余り行きたくないところだったのです。 ところがATM導入後は、ATMボックスに入ってカードを差入れ希望金額を打ち込むだけでお金が手に入る訳で、簡単安直になったのです。10万円借りて返済したり追加借り入れしたりしていると、店から実績が出来ましたから、融資限度額を50万円に引き上げましたと通知が来る。すると50万円までATMからお金が出てくるのです。借金は病気というタイプの人がいます。これが多重債務者になっていくのです。 消費者金融業界はこのATMと包括契約商品を平成初期から始めましたが、当時の大蔵省は何ら禁止の指導もせずに放任しました。従って、業界としては役所のご承認を受けられたものと理解して全国に普及させたのです。大蔵省が、ATMと包括契約は貸金規制法の想定しないものであるから、禁止するとか、或いは貸金規制法をこれ向きに改正するとかの動きをしておればよかったのですが、そのようなことはなく、突然司法判断により、業界は壊滅するのです。 ATM利用による多重債務者が続出し、裁判所への自己破産申立が激増し、社会問題になった数年前から、ATMから出てくるレシートには17条書面と書いてあるが、返済年月日と返済金額の欄がないから、17条書面とは言えない。17条書面が交付されて初めて利息制限法の適用が排除されているのであり、よって利息制限法が適用され、過払い金利の返還を求める訴訟が大量に提起されることになったのです。 業界では平均年26%で貸していますが、利息制限法では18%として、差額8%で業者が借り主から定期預金を預かってきた計算になってしまうのです。普通、5.6年借入を続けていると、過払い金精算計算すると、残高0円となり、その後の弁済金額が全部定期預金しかも民事法定利率年5%の損害金付きになるのです。低金利の時代、これはお得な商品です。 この裁判騒ぎは5年前から始まり、業界は裁判対策を苦労していましたが、最終的司法の判断は、業界の負けで出ました。業界全体で幾らの過払い金なのか、何千億円なのか、気が遠くなる計算です。お陰で、業界の株価は大暴落、必死のリストラ策を模索中で、店舗の閉鎖、人員削減当たり前で、身売りの会社も出てくるでしょう。消費者金融業界自体が銀行系列に組み込まれていくでしょう。 司法判断が一つの業界を破綻させた一例です。今後同じようなことが生まれるでしょう。 この結果、金融閉塞が発生してきました。懐かしい言葉です。昭和初期の銀行がバタバタ倒産した時代、恐慌と金融閉塞です。借りたいという資金需要があるのに、借りられないということです。景気循環に悪影響が起きないでしょうか。たかが、30万円50万円の個人のことだ。企業を主体とする経済とは関係ないと言ってもよいかも知れませんが、心配材料です。 この件は、弁護士特需になっています。最近年間何千万円をサラ金から回収して1000万円報酬を得たと豪語する弁護士が増えてきました。 弁護士の世界でも流行がありまして、戦後しばらくは農地解放無効の裁判で稼いでいました。地主が農地解放で取られた農地が自作地であったという理由を付けて提訴したのです。私が弁護士になった昭和49年でもまだ名古屋高裁で継続していました。 その後は昭和50年代の交通事故です。しかしこれは自賠責保険の限度額引き上げ、示談代行付き保険の販売で、急減し、今や過失相殺で争うもの以外裁判になることも少なくなりました。 平成の初めは、バブルで、不動産関係で大もうけしましたね。腐った借家の立ち退き料が何千万円の時代でした。 今は、過払い金返還ですが、東京では、M&A絡みで、企業専門弁護士が荒稼ぎしています。バブルの時は、全国の弁護士が食いましたが、東京金融M&Aバブルでは東京の一部の弁護士だけが食っています。 3、司法判断を読み間違えないこと。 裁判所が考えていることは、消費者保護、弱者救済、公正自由競争、情報開示、製造物責任です。これが錦の御旗です。これに逆らうとひどい目に遭います。 雪印も不二家もそうです。消費者保護、情報開示、製造物責任の錦の御旗を蔑ろにしていると、会社の存亡の危機を迎えたのです。 松下は10何年前の石油ヒーターの回収で巨額の回収費を余儀なくされています。全国紙に何回でも回収広告を出しています。松下だから出来ることですが、パロマ程度の企業では致命傷になります。パロマは資本系列にない特約店が勝手な改造をしたから責任がないと社長が言っていましたが、資本関係にあろうがなかろうが、パロマの看板を掲げた以上、特約店もパロマ側なのです。錦の御旗に逆らっています。 昨年から労働審判制度が発足しました。これは配転・解雇・昇格などの労働裁判を簡便にする新制度です。 配転・解雇でも経営者は読み違いをしています。社員が配転、解雇の無効審判地位保全を提訴したとき、裁判所は少し金を出したらどうかと言います。すると多くの経営者はあんな無能な社員を配転したり解雇して何が悪いと反発し戦うと言い出します。すると弁護士の法律事務所で配転、解雇の有効についての陳述書作りの作業が始まります。総務課長の仕事になりますが、中小企業では社長自身の仕事になり、10何時間取られます。裁判所へは何回か出向くことになります。この分営業に出ていた方が得です。 その揚げ句、裁判所は弱者救済の錦の御旗で地位保全の決定を出します。本裁判になりますから更に何年も裁判が続き、この間社員に給料を払い続けなければりません。 社員が違法行為をしていた場合ならば別として、単に社長が無能で馬鹿な社員と思ったというだけの事案では、会社勝訴はありません。そもそもその社員を雇ったことが身の不徳なのです。 裁判所の相場は、短期雇用で、3〜6月分、長期雇用で、1〜3年分の退職金を出してやれ、ということです。これに逆らうと、延々と給料を払い続けなければならないことになります。 4、M&A TOB 買収対抗策 会社防衛 MB0 M&Aが花盛りです。外資ファンドが株価が安く評価されている会社を買収する為にM&Aを仕掛ける、TOB公開買い付け MOB経営陣による買い付けが流行です。原因は金余りです。円安で日本から流出した金も外資ファンドを通じて還流しています。 産業資本主義では資金は工場生産設備等への投資に向けられますが、金融資本主義では投資ではなく、私に言わせれば、投機、ばくちです。油まみれになるのではなく、株式の売買でばくちを張るのです。これも一種のバブルになっています。産業資本主義で初めて会社の価値が上がるのですが、価値が上がるのも時間差がありますから、その時間差に目を付けてばくちをするのです。しかし上がってしまえば、下がるのが必定、20年前アメリカの不動産を買いに出動した日本資本はどうなりましたか。高値で買ったものを投げ売りして帰国したのです。外資ファンドも同じ事です。外資ファンドがいつ売り逃げを考えているのか、読み切ることが必要です。外資ファンドは金融資本主義であり、産業資本主義ではありませんから、経営を考えませんし、そもそも外資ファンドの連中は経営能力がありません。乗っ取っても新参者ですから会社の内実を知らないし、社員の人心の掌握が出来ませんから自ら経営できません。産業資本主義に凝り固まった経営者の力を借りなければならない立場にあります。ですから、乗っ取られると危惧する経営者は外資ファンドの足下を見通すことが大事です。 ルノーのゴーンは外資ファンドではありません。日産の例は今から述べることとは別です。産業資本主義の国際化の例として評価できます。中外製薬はスイスのロシェに買収されましたが、業績は伸び株価も上がっています。私は良い買収だったと思い、株は持ち続けています。世界一の製鉄会社ルクセンブルグのミタルが新日鐵を買収しないか、騒がれています。これもM&Aと会社防衛策として議論するのではなく、産業資本主義の国際化として冷静に議論しなければなりません。一方の傾向として、これらの問題を民族資本主義、自国産業防衛という政治主義の観点から議論する向きがありますが、危険な方向です。日本の会社は欧米、アジアでM&Aを盛んに展開して実績を上げています。トヨタを見てください。日本の国策は国際自由資本主義、自由貿易なのです。 M&A、TOBに対する過剰反応としての会社防衛策 MB0 外資ファンドによる会社買収TOBが花盛りになるにつれて、狼がやってきたと経営者は防衛策に奔走していますが、過剰反応気味です。 経営者にとってみると、会社乗っ取りは自分の社長としての地位が奪われ、高額取締役報酬も専用車も秘書付きの社長室も名誉も地位も奪われると恐怖しています。 ですから、会社防衛策としてうまい名案がないか、テクニックでも良いからないかと知恵を絞り、会社防衛策を売り込んでくる弁護士に取り込まれて愚策さえ採用する失態をしています。M&A、TOB、会社防衛策の問題は最近始まったことですから、司法判断は少なく、今は何を提案しても許される時期で、玉石混淆の提案が並んでます。その中で何が正しいか、司法判断はどう出るのかを読み切らないと間違いを犯すでしょう。 会社防衛策として、黄金株、ポイズンビル毒薬条項、新株・新株予約権の大量発行があります。いずれも、買収を妨害する目的から発案されたものであり、これを会社防衛策として採用する会社も出てきているが、司法判断がどう下されるか関心が集まっている。 数少ない司法判断からいくつか紹介して裁判所が何を考えているのかを述べてみます。 ニッポン放送対ライブドア 新株予約権発行差し止め仮処分 ライブドアの株式買収に対してニッポン放送がフジテレビに大量(発行済株式総数の1.4倍)の新株予約権を発行しようとしたら、ライブドアが差し止めを提訴した件である。 裁判所はライブドアの提訴を認めて、差し止めを命令した。 (判決の要旨) 株主全体の利益確保の観点から、新株予約権の発行を正当化する特段の事情がある場合には、経営支配権の維持・確保が主要な目的と認められる場合であっても、例外的に不公正な方法による発行に当たらない。それは、以下の4条件の場合は会社防衛策は有効、それ以外は無効とするものです。 @買収者がグリーンメーラーの場合 真に会社経営に参加する意思がないのに、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で買収すること。 A焦土化経営目的の場合 会社経営を一時的に支配して会社の経営上必要な知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客を買収者やそのグループ会社に移転させる目的で買収すること B会社資産の流用目的の場合 会社経営を支配した後に会社の資産を買収者やそのグループの債務の担保や弁済原資として流用する予定で買収すること C会社資産の売却により株価を急上昇させ高値で売り抜ける目的の場合 会社を支配して不動産、有価証券を売却し、その利益をもって一時的高配当をさせるか、高配当による株価の急上昇を狙って売り抜けること 本件の場合、この4条件に当たらないから、新株予約権の発行を差し止める。 会社の経営支配権争いが現に生じている場合に於いて、敵対的買収によって経営支配 権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営者らの経営支配権を維持確保する ことを主要な目的とする新株予約権の発行は原則として不公正な方法に該当する。 (この判決の読み方) 4条件に該当すれば、買収防衛策は出来るから、これは活用できる。裁判所は会社防衛策の味方だと読むのは、間違いです。裁判所は、会社買収の自由を原則的に認め、対抗策としての新株発行による買収者の持株稀釈化を不公正として禁止したのです。 4条件を読んでください。乗っ取りの目的と買収後に会社資産・持株を売り払うことを条件にしています。買収戦の最中に、買収者が私は乗っ取り屋ですと自白する筈がない。会社経営権を支配したら、現株主と協力して良い会社を建設したいときれい事を言うだけです。又買収戦の最中に、買収後は会社資産や持株を売り払うと言うはずがなく、買収者に4条件が該当するとしても、会社側は証明不能なのです。 買収者が過去に札付きの乗っ取り屋という前歴がはっきりしていればいいのですが、今のところ、どの外資ファンドにもその札付きは貼られていません。スティールに対しても札は貼りようがありません。ミタルに対して4条件が当たると新日鐵が主張した場合、無礼者と反論されて終わるだけです。 ニレコ対外資ファンド 新株予約権発行差し止め仮処分 ジャスダック上場のニレコは、平成17年3月14日の取締役会で、平成17年3月31日現在の株主に倍の新株予約権を割り当て、発行価格を無償とし、権利行使価額を1円とする、行使期間は平成17年4月1日から平成20年6月16日までの間、手続き開始要件はニレコの取締役会が20%以上の株式保有者の存在を認識公表したとき、という決議をした。 そこで2.85%を所有する外資ファンドが差し止め仮処分を申請したところ、裁判所は認めた。 (裁判所の判断) 新株予約権が行使されれば、会社資産に増加がないのに、発行済株式数だけが3倍増加し、株価は理論的に3分の1に下落する。新株予約権の権利落ち日以降に株式を取得した株主は持株比率の稀釈化の危険を負担し、株価の値下がりがある。今後3年間株価の下げ圧力として作用し、株価は低迷する。既存株主も長期にわたりキャピタルゲインを獲得する機会を失う危険がある。既存株主に損害を及ぼすから、発行は無効 (読み方) 買収者の権利を侵害するから無効というのが、ニッポン放送の判決です。ニレコ判決は既存株主の利益を侵害するから無効と言うのです。 論法を、右へ行っても、左へ行っても、裁判所は無効と言うのです。 このような裁判所の判断ですから、従来から提案されていた会社防衛策としての、黄金株などは裁判所が認める筈がないことは明らかになってきました。未だに黄金株方式による会社防衛策に望みを託している人(経団連・政治家)もいるが、やって裁判所に無効と言われる前にやめた方が宜しい。東証は、黄金株原則禁止、導入したら上場廃止としたが、例外規定を設けて未練たらたらである。 黄金株というのは、拒否権付種類株式で、平成13年商法改正で導入され、定款で株主総会又は取締役会で決議すべき事項で、その決議のほかに、ある種類株式の総会の決議を要すると定めることが出来る、とするものです。 要するに、株主総会で決議しても、種類株主総会の拒否権を認めることです。それは株主平等原則に違反することとなり、裁判所が認めるはずがありません。 新株予約権を用いた会社防衛策は色々発明されているが、平成18年10月に同和鉱業が採用した会社防衛策も危ない。 9月30日時点の株主に1株につき0.05株の新株予約権を交付し、3年間保有を継続した株主に1株1円の対価で新株を渡す、内容である。 10月1日以降の株主は、株価が常に5%引きで稀釈化される危険性を負担させられるし、これは株主平等原則に違反するとともに、一物一価の原則に反し、株式の二重価格をもたらす。株式の市場流通性に悪影響を及ぼす。株主や将来株主になる投資家に周知徹底が可能なのか。 ニレコ判決から言えば否定されるが、たった5%だからいいか、3倍とは訳が違う、とは言える。自社株に傷を付けて買収者の買う気をなくさせる会社防衛策と見えるが、姑息に過ぎる。5%位でひるむ買収者はいない。普通5割は差益を抜く計画を立てるものである。 サッポロビール対スティール TOB戦争 今この戦いが熾烈です。 昨年スティールは明星食品にTOBを仕掛け、49億円で仕入れた株を85億円で日清食品に売り抜き、その勢いでサッポロにTOBを仕掛けました。 昨年の明星食品の件は馬鹿げた話でまんまとスティールに儲けさせてしまったのです。 スティールは最近投資の実績が上げれないので困っていたようで、明星食品に対するTOBでスティールが提示した買い取り価格は時価の14.6%増しの700円、普通20〜30%増しが相場です。だからスティールは本気ではないことが見えるのに、慌てた明星経営者はホワイトナイト探しに奔走し、三菱UFJ証券の甘言に乗った日清食品が870円で対抗TOBを発動し、スティールはさっさとTOBをやめて日清食品に売り抜けたのである。だいたい同種の商品が競合しているのに、日清が明星を買収しても相乗効果はない。高い買い物をしたのです。明星の経営者が冷静でおれば、スティールを日干しに出来て、日本に於ける外資ファンドTOB戦争最初の勝利を記録し得たのです。この騒ぎで儲けたのは、スティールと証券会社と弁護士です。 スティールのサッポロビールでの買い取り価格は12%増しの825円で、明星と同じやり方です。 サッポロの対抗策は、最近主流になった、2006年2月に導入した事前警告型と言われる会社防衛策です。これは、20%買収者が登場すると、発動するもので、買収者に情報提供の質問を求め、回答しなかったり、買収に不当性が認められたときは新株発行で対抗するものです。 質問状は、スティールの概要、買収目的、株式取得価格の算定方法、資金調達方法、買収後の経営方針であり、前記の4条件を念頭に置いている。 3月29日のサッポロの株主総会では、この会社防衛策が承認され、スティールの会社防衛策の発動についても株主総会の決議を必要とする定款改正を否決した。 スティールは今のところ質問状に対する回答をしていないので、睨み合いの状況であるが、サッポロがスティールの回答を不足と見なして、新株発行したら、スティールは新株発行差し止めを提訴するから、この帰趨が注目される。 問題は、新株発行を誰に幾らでするかである。株主平等の原則に違反しないよう、サッポロの決断が重要だ。 MB0の動向、経営者の安値買収は許されるか 会社防衛策が検討される中、いっそ経営者がTOBかけて買収し上場廃止してしまえという究極の会社防衛策としてのMB0が増えてきました。ワールド、ポッカ、すかいらーく、そしてレックスホールディングスです。 レックスホールディングスは焼肉店牛角を経営しているが、買い取り価格が直近の13.9%に過ぎないということで株主が騒いでいます。新規公開以来高値で買った株主が損失を抱えて困っているのです。 MB0の場合、経営者にとって買い取り価格が安ければ儲かるという構造があり、わざと赤字決算にしたり、無配当にしたりして株価を安値誘導をしておけば良い。粉飾の逆をやる訳であるが、経営者であれば容易に出来る。ここに取締役と会社との利益相反の問題、取締役の忠実義務の問題が発生する訳です。 経営者には外資ファンドが付いて悪知恵を仕込み高額報酬を頂くわけで、外資ファンドはTOBでもMB0でも儲けることになる。外資ファンドは経営者に買収資金を貸し付けることになるが、この回収の仕方いかんでは、最終的に外資ファンドが経営者を追い出し、乗っ取りが出来る。MB0も資金手当如何では、経営者にとって名案ではなく、最悪の結果もあり得る。 会社防衛策に名案はないのか ウルトラCの名案はありません。名案だと言って売り込んでくる会社防衛コンサルタント、弁護士、会計士、証券会社、信託銀行がいますが、だまされてはいけません。ニッポン放送やニレコのように、裁判所から差し止め命令を受けて大恥をかくことになります。 根本は、自由資本主義、株主平等原則、多数決民主主義により決まります。 オーソドックスな対策しかありません。 @企業価値を高め、株価を高めて、買収者の買収意思をなくさせることです。その為の 配当の高額化は重要です。5円配当をすれば十分だと言っている経営者がいますが、時 代遅れです。配当利回り2%台にすると、大衆安定株主を得ることが出来ます。 A関係会社との株式持ち合いを強化することです。但し、工場建設に投下せずに株式を 買うわけですから、資金が寝てしまう訳です。株主の理解を得られるかが問題です。 外資ファンドのTOBに持合会社が応じて裏切ったらどうなる、との心配もあります。 B一旦会社を明け渡す手もあります。株の過半数を取られて、買収者が代表取締役を派 遣してきても、旧経営者は少数株主になったと言っても、株主です。株主権を行使して 代表取締役と戦争継続が出来ます。どうせ外資ファンドは短期で儲けて売り逃げを目的 としています。ベトナム戦争のゲリラ戦と同じで、長期戦で戦うこと、特に社員、特約 店、顧客との同盟が出来れば、外資ファンドはあきらめて株式を損切りして撤退します。 今までこの作戦を取った例はなく、外資ファンドから買収をしかけられた経営者は、外 資ファンドを儲けさせてお引き取りを願うという低姿勢作戦ばかりでした。甘いから更 になめられるのです。 30年前にホンダが買収を仕掛けられたら、本田宗一郎はどうしたでしょうか。短気 ですから、ほんならみんな持ってけ、自分は新ホンダを起こす、皆俺についてこい、と 言うでしょう。本田が作って藤沢が売るという個人カリスマ企業でした。社員はみんな 本田について行き、外資ファンドが会社に乗り込んだときは誰もいないことになります。 ホンダの特約店もみんなついて行くでしょう。会社は人、人は城、札束だけで人が動く のではありません。しかし、経営陣に内紛があり、外資ファンドに付く裏切り者がいな いことが肝心です。 漢の高祖劉邦は項羽に百度負けましたが、最後の一戦で勝利して天下を取りました。 長期戦で戦えば外資ファンドの東京支店長は短期差益取りの失敗を問われ、首になります。 会社防衛策に狼狽えている経営者は旦那衆で、門付けのやくざに金を握らせてお引き 取りを願うことばかりしています。長期戦を厭わず戦い続けていれば、時間を背負う外 資ファンドはあきらめます。但し、それには経営者に人徳、人気があるときの話であり、 社員も取引先も、あの社長が外人に替わるのか、どうせ今以上悪くなることはない、と 思われているのならば、戦えません。今直ぐに辞任した方がいいです。 サッポロビールもそうです。TOBに負けたら、一旦外人の社長に来てもらいやらせ る。会社重要資産の切り売りを始めたら、株主総会特別決議2/3要件で阻止する。一期 やらせて業績低迷なら解任決議案を出して戦う。当然株価は低迷し、外資ファンドは損 切りを覚悟しますから、市場で買い戻せばよい。キリンもアサヒも外資ファンド側に走 らないよう牽制しておく。 戦は地の利である。旧経営者の方が地の利で有利である。この戦の中で、当然敵味方 血みどろになります。MB0は買収戦争です。 上場は必要なことなのか。 経営者の究極の願いは上場することだと言われている。上場時の株売り出しで創業者利益を確保できるし、銀行に頭を下げて融資をうけなくても、資本市場から集めることが出来る。地位も名誉も付いてくる。 しかし、上場すると、毎年何千万円〜1億円掛かると言われている。証券会社、信託銀行、監査法人、弁護士への支払、特に未体験の株式事務が発生し、従来の社員では対応できないから、証券会社から総務部長級以下何人かを招かなければならないことになるし、株主総会の練習だけをとっても、工場で油まみれで働いてきた創業社長には向かないことばかり発生する。時価総額5億円、売上5億円、経常利益0円でも名古屋、福岡、札幌の新興市場ならば上場できるが、上場経費も払って上場するメリットがあるであろうか。銀行が低利で融資してくれる現在、何千万円〜1億円の上場経費は融資金利と比較して割り損である。 新興市場は2年前の上場すれば値上がりするという時代を過ぎて、完全に低迷している。私は今年から下落している新興市場銘柄の打診買いを始めたが、まだ下落続けている。名古屋のセントレックス銘柄は殆ど全滅である。上場審査が甘く、幹事証券会社の手数数稼ぎで無理な上場がなされているのではないか。セントレックスで主要幹事証券会社であるエイチエス証券には、証券取引法違反で業務改善命令が出ている。 安易な上場は考え直した方がよい。 外資ファンド、上場、M&A MB0、TOBで詐欺事件が起きていないか 昔M資金詐欺というのがあって、M資金から低利融資を受けられるから、申込み料として金を詐取したとか、手形を詐取したとかありました。総会屋という者がいましたが、最近は廃業したようで見かけません。しかし死に絶えた訳ではなく、経済やくざとともに復活してきていると思われます。2007年3月に大阪府警が大証ヘラクレス上場のビーマップの株価不正操作を理由にパチンコ梁山泊グループを逮捕しました。山口組系の暴力団の経歴を持っていました。手口はビーマップの株を買い集めて株価を5倍にし、会社にグループ会社の売りつけを図ったという。断ると、役員入れ替えとか株式売り浴びせと言われた。 経済やくざが上場会社相手に恐喝的手法で暴利を得ているようです。M資金は正体不明でしたが、外資ファンドも正体不明です。日本に事務所を構えていると言うだけで、出資元が何なのか、一切公表していません。外資ファンドと名乗る人物がある会社に訪れて会社買収を持ちかけても、真偽のことは分かりません。そこで会社防衛策に走れば、会社防衛策売り込みの連中の標的となります。詐欺師、元総会屋、経済やくざが跋扈できる世界が出来たようです。 |
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