歴史評論9−19   名古屋空襲と戦犯裁判
2012.6.27
         

 東京ローズがいた。アメリカからの帰国子女が海外向けラジオ放送のアナウンサーになり、米兵に「アリゾナの奥さんは貴方が戦場で戦っているときに浮気しているわ」と厭戦気分を誘う放送をしていたのである。中には米国籍の子女もおり、戦後反逆罪で懲役になった気の毒な人もいた。
 東京ローズが放送で東京陪審裁判の実況放送をしてやり「ルメイは勲章を一杯貰っているのに、飛行士達は東京の陪審員から人殺しと言われているのよ。焼夷弾なんかやめなさい。通常爆弾で軍事目標に精密爆撃すれば捕虜になっても名誉ある捕虜として歓迎するわ。でも焼夷弾で市街地の女子供を殺したら陪審員たちから法の裁きを受けて縛り首よ。ガダルカナルの上空でアメリカ機は落下傘で降下する日本人パイロットを銃撃したけど、ハーグ空戦規則に何て書いてあるか、ご承知なの。アメリカの士官学校ではちゃんと教育しているのかしら。1943年11月26日アメリカ機は病院船ぶえのすあいりす丸を空爆して撃沈したうえ救命ボートに銃撃したのよ。貴方は心の優しいよい子だったのに、お国のお母さんが聞いたら泣くわよ」と放送すれぱ良かった。

 アメリカ飛行士達は無差別爆撃に躊躇するようになり、ルメイ少将が東京への無差別爆撃を命令しても、服従しなくなるであろう。
 日本政府はドーリットル隊への軍律裁判の結果を公表したが、昭和20年の軍律裁判については公表しなかった。だからアメリカ飛行士達は無差別爆撃をすると裁判で死刑になるということを知らなかった。だから無自覚にも違法な無差別爆撃を命令されて実行したのである。 法は知らせて後発効する。岡田資中将の司令官即決処刑、伊藤信男法務少佐の軍律裁判は適当ではなかった。アメリカ弁護士付きの公開陪審裁判で世界世論に訴える方策をとっていれば無差別爆撃は限定しえたと痛恨するのである。
 昭和17年1月29日日本政府はアメリカ政府からの質問に答えてジュネーブ条約準用を回答したが、同じように日本政府はアメリカ政府にハーグ空戦規則を批准するか質問すれば良かったのである。また東京ローズが空襲軍律を読み上げれば良かったのである。
 軍人の戦争ばかりに頼り、戦場で戦う以外に能がなかった。法家の法戦が必要だったのだ。

 ドーリットル隊のとき、軍律裁判に掛けることに対して、東条英機首相は在米日本人に対する悪影響を危惧して反対したが、天皇独白録によると、天皇は「銃撃された小学校の近くには高射砲陣地があったから搭乗員に責任はないのではないか」と語ったとある。
 天皇がハーグ陸戦法規を知っていたが、空戦規則までは知らなかったことが分かるが、天皇が戦時国際法を知っていたことには驚かされる。