戦場に法はないのか あとがき1


これはフィクションです。早瀬少佐もホーキング少尉も権吉もナタルシアも実在しません。あの戦争の時代に確かにあった細かなことを綴りながら、あり得たかも知れないことを想像し、自分が生きていたならどうしたか、やっぱり法家になってあの時代を生きて死んだであろうと思って書いた、ドキュメンタリー風フィクションです。
 若い人には分からない昔のこと、説明を要すべき事が多いと思います。些か長くなるが、何が事実であったか、そして拙論を書きます。

一、落下傘降下兵に敬礼

 戦争中アメリカで「空軍」と言う映画が作られ、落下傘で降下する米兵に対し、日本人パイロットがニタニタ笑って射撃するシーンがありました。この映画を真に受けた米兵がおり、空中戦に敗れて落下傘降下する日本人パイロットに対し射撃した事実がありました。空戦法規違反を教唆するこの映画の制作者の責任は大きい。
 一九四五年春、東京空襲の帰り道墜落したB二九から落下傘降下した米兵は接近してきた日本機のパイロットから風防を開いて敬礼を受けたことがあった。彼は捕虜となり戦後帰国したが、長い間このことを忘れることができなかった。戦後五十年目彼は来日して探したところついに発見した。彼は七三歳、日本人パイロットは七〇歳になっていた。
 日本人パイロットは語った。
「教官から日本には武士道、あちらにも騎士道がある。無抵抗の降下兵を射撃するな、と教えられていた。敬礼するのは礼儀として当然のことだ。その後米機と空中戦になり、敗れて、ある神社の裏山に墜落し、神主の娘の看護を受けた。それが今の女房だ。米機には縁結びをしてもらった訳で感謝しているよ」
 二人が抱き合う姿がテレビニュースで放映された。