戦  間  期  論  (10)      2018年6月4日

2018年6月の金正恩、体制保証とは何か
 

6月12日シンガポールで米朝会談が予定されている。議題は、体制保証と核兵器廃棄の交換だと言われている。
 体制保証とは、アメリカが北朝鮮に金正恩独裁体制を保証することだと言われている。私はアメリカの歴史から言って、体制保証と核兵器の廃止との交換はあり得ないと考える。
 太平洋戦争の末期の昭和20年7月26日、連合国はポッダム宣言を大日本帝国に通告した。
 内容は、
 1、日本軍国主義の永久追放
 2,日本軍の完全武装解除と兵士の復員
 3,戦争犯罪人の処罰
 4,言論・宗教・思想の自由と基本的人権の尊重
 5,日本領土の制限、千島・台湾・朝鮮の放棄
 6,平和政府樹立までの連合国軍の日本軍事占領

 日本政府と軍部はポッダム宣言は大日本帝国の無条件降伏を意味するしかないと評価し、本土決戦のスローガンのもと、鈴木貫太郎総理は28日記者会見で「黙殺する」との談話を発表した。これが無視すると翻訳され、アメリカのトルーマン大統領は広島長崎に対する原爆投下を指令した。
 原爆の威力に驚愕した政府と軍部は降伏やむなしとの考えに至ったが、なおも国体護持に拘った、第一次世界大戦後のドイツ帝国崩壊ドイツ国王オランダ亡命、ロシア皇帝処刑→ソ連共産主義化を恐れたのである。
そこで大日本帝国政府は8月9日、「天皇の国家統治の大権を変更するの要求を包含し居らざることの了解の下にポッダム宣言を受諾する」と回答した。御前会議は賛否3対3の同数、天皇の決断で降伏が決定された。
 大日本帝国からの国体護持を条件とする回答を受け取ったアメリカは「天皇及び日本政府の国家統治権は最高司令官マッカーサーに従属する。日本政府の最終形態は日本国民の自由に表明された意思によって確立されるものとする」と返答してきた。
 「従属」とはsubjectであり、軍部の一部は猛反発したが、天皇と鈴木貫太郎総理は国民が国体を決めるのならばよいではないか、と賛成した。日本の国体を決定する主体は天皇でもアメリカでもなく、日本国民自身であるというまさしくアメリカ的民主主義であった。

 さて、金正恩が核兵器廃棄と交換に金正恩の独裁体制の保証を要求してきた場合、トランプ大統領はポッダム宣言の歴史を思い出すであろうか。朝鮮民主主義人民共和国の国体は朝鮮民主主義人民共和国国民が決定することであると回答するであろうか。金正恩の体制保証要求に対して安直に妥協すれば、それは朝鮮民主主義人民共和国内部の民主化運動に打撃を与えることとなる。
 リビアの事例を想起しよう、あの時はリビアの核兵器化学兵器の放棄と経済制裁の廃止が取引条件であった。アメリカはリビア国内を査察し、核兵器と化学兵器を廃棄させ、見返りに経済制裁を解除した。しかし、アメリカはリビア国内の民主化運動に対する支援を継続させ、やがてアラブの春の時、リビア反体制派はカダフィーを追い詰めて逮捕し処刑した。
 トランプ大統領が賢ければ、体制保証の要求に乗らず、核兵器の廃止と経済制裁の廃止に論点を絞って交渉するであろう。
 実兄まで殺した独裁恐怖国家が長続きする筈がない。そろそろ反体制派が台頭してくるであろうし、特に中国や日本にいる朝鮮人が亡命政権を樹立するであろう。ヒトラーに占領されたフランスを救った者は在外植民地にいたフランス人達であった。