戦  間  期  論  (6)      2017年6月1日

金正恩にとって戦機はいつ到来するか
 2017年4月シリアのアサド政府軍が反政府軍支配地にサリン化学兵器攻撃をした。トランプ大統領は此の報復としてアサド政府軍の空軍基地に対してトマホーク攻撃を行った。金正恩は震え上がったであろう。金日成生誕記念日に核実験をしようとしていたが中止してしまった。実行すれば、トランプ大統領から核兵器工場へのトマホーク攻撃がなされると恐怖したのである。4月25日の朝鮮軍建軍記念日には陸軍の大砲の大量射撃訓練をして記念行事を簡単に終えてしまった。その後もミサイル実験は繰り返しているが、水爆実験だけはやらないでいる。
トランプ大統領の示威攻勢に金正恩も一歩退いたようであるが、金正恩は次の作戦を練っているであろう。
 戦機というものは環境の中で自然に到来する。それを読み間違えた者は常に敗北する。

 太平洋戦争の場合の戦機は1941年12月8日に到来したと、東条英機も山本五十六も信じた。日本は攻撃者であった。攻撃者は常に戦機を選択することができる。
 話の始まりは日中戦争であった。1937年から始まった日中戦争は南京陥落後蒋介石は重慶に首都を移転させ徹底抗戦して日中戦争は泥沼に陥った。日中戦争は日本の侵略戦争であり、領土拡張戦争であった。英米は日中戦争に反対し、蒋介石に軍事支援を与えた。インドからビルマを経由して雲南省まで支援物資を送り届けたし、アメリカ義勇兵パイロットは中国空軍に参戦した。
 ルーズベルト大統領は国務長官ハルのノートを日本へ送り、日中戦争をやめないのならば、アメリカは日本への石油輸出を停止すると通告してきた。日本の石油の在庫は1年半しかなかった。石油の国内生産のできない日本は1年半たつと軍艦を動かすことが出来なくなる。石油の在庫あるうちに開戦しなければならないと東条英機と山本五十六が戦機を決断した訳であるが、これだけの理由で戦機を選択したとすれば二人は大馬鹿者と言えるが、もう一つ戦機の選択に理由があった。
 欧州では第二次世界大戦が進行中であり、既にフランスはドイツに降伏していた。1941年6月ドイツはソ連に侵攻し連戦連勝で快進撃していた。やがてモスクワは占領されスターリンはウラル山脈に逃げ込むであろうと二人は予測していた。日本が英米を攻撃しても欧州で手一杯の英米は日本に対抗するだけの武力と決断が乏しくなる。世界大乱の状況があるからこそ戦機を12/8に決定したのである。最初の半年はうまくいった。ボルネオの油田を占領し日本は独自の石油を入手できたが、やがてアメリカ潜水艦により日本タンカーは次々と撃沈され、また石油枯渇の危機に陥っていく。
 
 トランプ大統領は朝鮮に石油を輸出している中国に圧力をかけている。今まで朝鮮友好国であった中国も金正恩の悪行に愛想を尽かし、本気で石油禁輸を決定しそうである。金正恩はかっての東条英機と山本五十六と同じ心境にある。石油の在庫のあるうちに開戦しなければならないと、戦機の選択に苦悩しているであろう。
 しかし、現在と太平洋戦争開戦時と異なることがある。世界大乱の状況にないのである。イスラム国が中東で戦争しているが、世界大乱の視点から見れば、これは局地戦に過ぎない。金正恩はイスラム国の戦争がヒトラーの戦争と同じ規模となり、世界大乱の状況を作らなければ戦機は至らないと考えるであろう。
 金正恩は朝鮮とイスラム国との軍事同盟を追求するであろう。
 共産主義者とイスラム教徒との同盟で有り、基礎となる思想の一致はないし、世界戦略も異なる。この両者を結びつけるものは何か。核兵器である。
 イスラム国は一時はイラクとシリアの半分を占領し破竹の勢いであったが、今では勢いがなくなってきている。
 イスラム国は朝鮮に核兵器の売却を求める。ミサイルは管理能力がないからいらないと言うだろう。イスラム国は朝鮮から核兵器とその運搬手段である潜水艦の提供を求める。イスラム国軍人が朝鮮へ行き、核兵器と潜水艦の訓練を受けて、アラブへ持ち帰りシリアとイラクの戦場で爆発させる。イスラム国の主敵サウジアラビアへも爆発させて、サウジアラビア王家の滅亡と占領をはかる。金正恩は核兵器代金を得てさらなる軍備拡張を図る。
 現在のアラブ戦争は局地戦であるが、これをサウジ・イスラエル・トルコ・エジプトまでの世界大乱に発展させる。これにより金正恩は東条英機や山本五十六と同じ考えに至り、戦機の到来を確信する。
 問題は、現在金正恩は何発核兵器を持っているかである。イスラム国に売る分も含めて10発以上持っていなければ世界大乱はなしえない。 朝鮮は5回核実験をしているから、5個程度しか持っていないと考えるのは早計である。広島原爆はウラン型、長崎原爆はプルトニウム型であり、前者はネバタ砂漠で実験済みであるが、後者は実験なしで投下している。理論計算だけで爆発が成功することに自信を持っていたからである。実験の回数が少ないから保有完成水爆の数が少ないと即断してはならない。北朝鮮はウランを産出できるという強みを持っている。10発か20発を保有しておれば、イスラム国が買い取る水爆も多くなる。イスラム国はニューヨーク湾で爆発させるであろう。9.11テロの再来である。
 金正恩が東条英機や山本五十六並の男ならば、イスラム国との軍事同盟と水爆の輸出による世界大乱開始まで開戦しないであろう。しかし、金正恩がヒトラーならばそれを待たない。ヒトラーは日本の参戦を全く期待しないまま第二次世界大戦を開戦した。ヒトラーはドイツが勝利できなければドイツ民族は滅亡すべきだと信じていた。1944年6月6日のノルマンディ上陸作戦により戦局が一変した。ドイツ敗北の可能性が出てきたのに、ヒトラーは最後まで戦うことを督戦し続けた。最後の1年間の死者はその前年の倍である。特にヒトラーはユダヤ人の虐殺を急がせた。1944年ヒトラー暗殺未遂事件が起こるが、成功していれば第二次世界大戦の犠牲者は100万人少なくてすんだはずである。金正恩はヒトラーに似ている。勝利できなければ、自国民はおろか世界民族の死滅さえ計るであろう。
 金正恩は武田勝頼に似ている。武田信玄は諏訪氏を滅亡さその娘を妾とし妾腹に産まれたのが勝頼である。正室には嫡男がいた。しかし嫡男は父に対して謀反を試み切腹し、突然勝頼に跡目が回ってきた。武将達には諏訪氏の子であるが故に信頼を得られないままであった。
 1573年信玄が死ぬ。3年間我が死を隠せ、跡目は勝頼の子に指名し勝頼は後見人になるよう遺言した。信玄は勝頼の弱さを知っていたのである。しかし、勝頼は信玄が果たせなかった織田征伐と上京を成し遂げたかった。3年の喪明けを待たず1575年勝頼は長篠へ出兵する。信長と家康は馬防柵を築き鉄砲を並べていた。勝頼軍は1万5000人、織田徳川は2万5000人と言われている。兵隊と兵力の圧倒的差があるのに騎馬隊の突撃を命じた。
 金正恩は金正日の後妻の子である。嫡男は金正男である。金正恩の母は日本からの帰還者であり踊り子をしていたところ美貌が見そめられ金正日の後宮に入って金正恩を産んだ。儒教思想の残る朝鮮では本流になれない生まれなのである。金正恩の兄殺しの動機もここにある。世界との戦力との圧倒的な差を無視して金正恩は開戦し、負ければ朝鮮民族が滅びてもよいと言い放つであろう。中国からの石油輸入が停止し、備蓄石油が途絶えたとき、やけくそ開戦をするだろう。日本の備蓄石油を狙って日本占領→朝日併合戦争に賭けるであろう。38度線を越えて韓国を攻撃するより、日本を攻撃した方が勝ち目がある。日本自衛隊は強兵ではないし、民間人は一人も鉄砲の扱い方を知らない。
平和ぼけした日本人の奴隷化は容易である。スターリンは満州にいた関東軍兵士を捕虜にして強制収容所に押送し、無償労働させて国の経営をした。

 金正恩は戦機と勝機をどう考えているのであろうか。
 中国が石油禁輸したとき、太平洋戦争での東条英機と山本五十六の判断に近い。二人にはドイツという同盟国による世界大乱があり、そのどさくさの中に勝機を賭けた。イスラム国との軍事同盟が成立し、イスラム国が金正恩の期待するような活躍をしてくれるかどうか、未知数である。核兵器を提供しても使いこなせるかどうか。核兵器の目標をアメリカにするかどうか、悩みは尽きない。東条英機と山本五十六は簡単にヒトラーを信奉したが、イスラム坊主どもが共産主義者の金正恩を信奉することはあり得ない。利害得失による同盟締結となるが、裏切りはついて回る。
 現在の世評は、金正恩が暴発して核実験に踏切り、トランプ大統領がトマホークを朝鮮の兵器工場と軍事基地にたたき込み、或いは水爆をたたき込むかもしれない。朝鮮から韓国日本まで死の灰が覆うであろう。その結果金正恩は爆殺されるか、クーデターで殺されるかで終わる。ヒトラーは自殺し、ムッソリーニは吊された。
 ヒトラーは日本と軍事同盟を締結したものの、ドイツ独自で第二次世界大戦を開戦した。モッソリーニというイタリアの同盟者がいて一緒に開戦したが、ヒトラーはイタリアを頼りにしなかった。イタリアはエチオピアを攻め入るが、手こずりドイツの応援を得て辛うじて勝利した。1941年イタリアはギリシャへ侵攻するが、ギリシャ軍に敗北し、そのためにヒトラーは援軍をギリシャへ送らなければならなかった。そのためにドイツのソ連侵攻が6月まで延期となった。この遅れが後まで響いた。1941年12月ドイツ軍はモスクワ近郊に接近できたが、降雪のため遂にモスクワを占領できず、野外で越年ざるを得なかった。ナポレオンはモスクワを占領はできた。5月に対ソ開戦しておればモスクワを占領でき、スターリンはウラル山脈へ逃亡せざるをえなかった。独ソ戦中スターリンはモスクワにとどまりモスクワから対独戦を指揮した。だからこそ赤軍兵士の士気は高まり、スターリン信仰が広まったのである。
 金正恩はヒトラーのように一人で開戦するであろうか。イスラム国との軍事同盟の締結→水爆の売却まで待つであろうか。その時期と中国の石油禁輸→備蓄石油の枯渇との前後関係が重要となる。
 中国は石油禁輸を真剣にはやらないであろう。中国とアメリカ・韓国との間に北朝鮮という緩衝地帯が存在している現状が望ましいと考えている。ロシアも同感している。今が一番よいと考えているが、金正恩はそうは考えないであろう。
 金正恩はそれほど馬鹿ではなく、経験の積んだ将軍達もいる。ミサイル開発よりも日本占領作戦に切り替えるであろう。ミサイルを100発撃ってもアメリカ大陸は広い。到底アメリカの反撃能力を消滅さることは出来ないし、海外に展開しているアメリカ軍は健在である。日本の天皇と閣僚を捕らえること、日本占領と朝日併合、日本を人質にすること、横田めぐみさん達を拉致したことと同じことをすればよいと気付くであろう。

 4月から北朝鮮は次々とミサイル実験をしている。1発何十億円もする。豊富な資金と高い技術力が認められる。何故か。中国は北朝鮮支援に消極的になってきた。中国は今や国際貿易国家に成長し、国際法を遵守しなければならなくなった。守らなければ世界から貿易制限の制裁を受ける。特に対米輸出が制限されると国益が害される。今まで緩衝地帯の意味で北朝鮮を保護してきたが、これからは違う。
 一方ロシアは違う。国際貿易国家ではない。一国内完結経済である。ロシアに対して輸出を禁止できる物がない。すべて自国生産可能である。反対に欧州はロシアから石油と天然ガスの輸入を止められれば大変な経済危機となる。北朝鮮への国際制裁などロシアは真剣に考える必要はない。
 4月から北朝鮮とロシアは定期航路を開設した。あのおなじみの万景峰号が往来するわけである。ロシアは北朝鮮への制裁など考えていない。もっと想像すれば、ロシアが北朝鮮にミサイル技術を提供しているのではないか。ロシアのプーチンはソ連帝国の復活を計画している。1991年ソ連邦が解体し、ウクライナ・グルジア・カザフスタン・アルメニア等のカスピ海周辺の諸国が独立してしまった。このあたりは石油と稀少鉱物が産出する。一国完結経済を願うプーチンとしては是非とも欲しい国々である。
2015年プーチンは黒海のクリミヤ半島をウクライナから強奪してしまった。クリミヤのセパストポリには海軍基地があり、黒海を支配して南下しトルコ・シリア・イラクへ侵攻できるようにした。現在ロシアはシリアのアサド政府軍を支援し、アメリカは反政府軍を支援しているが、ロシアの目的はアサド政府軍を勝利させ、反政府軍とイスラム国軍を駆逐し、シリアをロシアの勢力下におきたいのである。その次はイラク・イランへと進み、アラブの覇者になりたいのである。当然にアメリカのアラブでの権威は失墜する。ソ連から独立したカスピ海周辺の諸国を再び併合したいのである。トランプは威勢のいいことを言っているが、実際に核ミサイルが飛び交えば、チキンになってアメリカ大陸に閉じこもるであろうとプーチンはトランプを嘗めている。
 アメリカ艦隊は北朝鮮の危機に対応し、地中海ペルシャ湾から日本海へ移動中である。これはプーチンにとって好都合なことである。金正恩に適当に暴れてもらい、アメリカ軍を東西に分散化させ、シリア内戦のアサド勝利を確実にしたいのである。だからロシアは北朝鮮への制裁を骨抜きとし、北朝鮮労働者の雇用、石炭の輸入、石油の輸出、ミサイル技術の提供を続けるであろう。プーチンのソ連帝国復活の野望は金正恩の野望よりもっと遠大である。プーチンが主役ヒトラーで、金正恩はヒトラーに悪のりした東条英機・山本五十六並ではないか。日本と韓国は金正恩にやる。ソ連帝国の領土復活はプーチンがやる、アメリカはアメリカ大陸に封じ込める、というプーチンと金正恩の軍事同盟が成立してもおかしくはない。日独伊三国同盟もそうした経過で出来た。欧州はドイツが取る。アジアは日本が取れ。
 プーチンも年である。敬愛するスターリンのように世界に覇を唱える栄光を実現したいが、彼の野望ソ連帝国の領土復活は遠大すぎて寿命がない。クリミヤの奪取とアサド政府軍の勝利までは見ることができるが、その先の金正恩の戦争までは見たくもないであろう。プーチンは金正恩に適当に暴れてもらってアメリカ軍を東西分散をさせ、シリア戦争を勝利させたいのであるが、金正恩が暴発する可能性が有り、プーチンは何処で金正恩を止めるか、或いは排除するか悩みの種となる。プーチンの決断よりも金正恩の暴発の決断の方が早いかもしれない。モスクワの北朝鮮大使館に水爆を持ち込むという手もある。
 日本はそろそろ防空演習を始めた方がよいだろう。東京オリンピックは中止となることも選手達は覚悟しておいた方がよい。競技場よりも防空壕の建設が大事である。昭和20年の記憶がある人が生きているうちに経験談を聞いておく必要がある。